11
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18
19
20
21
22
23
24
25
26
27
28
29
30
   

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

番外編 フレイムの奇妙な学院生活(前篇)

鳥のさえずりが聞こえてくる。

窓の外から入ってくる朝の光と鳥の鳴き声に、キュルケの使い魔であるフレイムは瞼を開けた。

(んあ・・・・もう朝か)

目を開けたがまだまだ眠たく、ジッとしていると自然と目が閉じていく。喉の奥からこみあげてきた欠伸を思いっきり口から出すと、目の端から涙が滲んできた。僅かばかりであるが、頭が軽くなった気がする。
昨夜は主人のキュルケが遅くまで起きていたのでフレイムも眠れず、寝不足気味なのだ。
だったら外で寝ればとフレイムも考えたが、外は外でうるさい奴らがいる。
例えば深夜徘徊してるマンドラゴラとか人間の使い魔とかシューシュー言ってる巨大蛇とか...
だったら、うるさくてもちゃんと寝床が作られている部屋の方が何倍も良い。
厳しい環境で育ったフレイムも、やはり整った寝床の気持ち良さには抗えなくなってしまった。
ぼやけた視界が徐々にはっきりとしてくる。『フレイムは今日の朝ごはん何出るだろう?』と考えながら部屋を見回した。

(あれ...?)

何かおかしい。
いや、別に部屋にあるモノの位置が変わっているわけでも変なものがあるというわけでもない。なぜか、いつもとは違う雰囲気が漂っている感じがする。

(・・・・ま、いっか)

しかしフレイムは特に気にすることもなく、再び眠ろうと目を閉じた。
どうせ御主人が起きないと朝ごはんには行けないし、さっきチラッとベッドの方を見たけど、そのご主人はまだまだ起きる気配はない。
だったらそれまで寝るのが利口だ。
そう頭の中で結論付けて二度寝しようとした時、ガチャッとドアが開く音がした。


「まったく...いつまで眠っているのですか。起きなさい!!」


訪問者の声が部屋に響いた。その声は当然フレイムの耳にも入って来たが、次にはフレイムの視界は反転した。

(おわっ!!)

閉じ切ったフレイムの目も開かれる。ごろんと腹を上に向けられたフレイムの前には、あまり馴染みのない部屋の天井と、


「また床で寝てるのですか?いい加減に起きて支度しなさい。もうすぐ朝食ですよ」


全く馴染みのない人間の少女がこちらを見ていた。

(ええええ~???誰?)

フレイムの頭は混乱した。自分でも頭は決して良い方ではないと自覚しているが、キュルケの使い魔である以上、自分と同じ使い魔と、主人での周りにいる人間の顔くらいは覚えているつもりだ。
今自分の目の前にいるのは使い魔でもなければ、自分の知っている人間でもない。
細い眼がスッとこちらを見ている。整っている顔立ちは主人であるキュルケとは違う美貌がある。
髪は植物のような緑色をしており、床からだと髪型は分からないが、花の髪飾りが額の所に見えた。
視界の端にマントの布と白い布が見えた。おそらく、御主人が良く着てる制服とやらを着ているのだろう。という事は御主人の新しい友人か?

どこかで見たような顔だな、ふと頭に浮かぶがフレイムにはどうもこの人間の少女を思い出せなかった。

(なんだよなんだよ?なんでオイラを起こすんだい。また床で寝て?ほっとけ。それならご主人を起こしてくれよ。ベッドで寝てるから)

全く、急に体をひっくり返されたのも腹立つが、いきなりそんなこと言ってくるのも腹立つ。フレイムは段々と、上から見てくる少女に怒りを覚えてきた。


「うるさいなぁ。オイラには関係ないだろ?オイラを起こすくらいならご主人を起こしてやってよ」


フレイムは面倒臭そうに手を少女の前に突き出した。
そこでフレイムは気づいた。

(あれ?オイラ今、喋ってなかった?)

勿論いつも喋っている。しかし今、「人間」の言葉を喋らなかったか?

(というか、前に突き出してる手...)

フレイムは自分が突き出した手をじーっと凝視してみた。
いつも地面を踏みしめているたくましい腕と、しっかりと獲物を捕える強い爪はそこにはなかった。
あったのは茶色い腕、そしてスラッと細くなった五本の指。爪はなぜか赤い。
フレイムの目がみるみる開かれていく。眠気が自然と飛んで行った。
ここにきて、ようやくフレイムは自分の異変に気づいた。


「はぁ、なにが関係ないですか。いつも起こしに来てあげているのですから、感謝くらいはして欲しいものですね」


少女はフレイムが出した手を掴むと、「フッ!」という声と共に、フレイムを上に持ち上げた。
フレイムも思わず立ち上がってしまう。


「あれー!!?」


フレイムの口から少し甲高い声が出てきた。

おいおいおいおいちょ、待って!オイラ今「立ってる」!!!!!??

フレイムはサラマンダーなのである。トカゲなのだ。それが「二本足」で立つなんてありえないではないか。
いや、仲間には二本足で立って走る奴もいるけど...
少なくとも、自分はそんな特技を習得した覚えはまるでない。


「全く、寝ぼけてるのですか?もう時間はありませんよ。ほら、変な声上げる暇があれば、そこの洗面台で顔を洗いなさい」


少女はくるっとフレイムを回して、洗面台と鏡のある方へとフレイムを押した。
ふらつきながら鏡の前に来たフレイムは、そこで鏡に映った自分を見た。
真っ赤な髪、茶色い肌、黒い目。ベッドで寝ている筈の主人と同じ様な雰囲気を持った顔である。目だけはなんとなく、いつもと同じに見える。
フレイムは手を顔にペタペタと当てながら確かめる。ついでに目や口なんかも動かしてみた。
間違いない。鏡の中の人間の手はオイラが動かしてるし、この顔もオイラのものだ。


「まじかよ・・・オイラ、人間になっちゃったの?」


フレイムの口はだらしなく開いたまま止まってしまった。
鏡の中の少年もそうしている。
ついでに目も飛び出しそうなほど見開いているが、鏡の中の少年も飛び出しそうだ。

こ、これが、オイラ?

頭の中にぐるぐるといろんな事が浮かんで来ては消え、そしてまた浮かんでくるが、現状を解決するモノは何一つとしてない。
そんな止まったままのフレイムの後ろから、モゾモゾと布が擦れ合う音が聞こえてきた。
ベッドの蒲団がめくれる音。ご主人が起きたんだとフレイムは察した。
フレイムはキュルケに助けを求めようと、すぐさま体をベッドへと向けた。


「ご主人!!大変だよっ!!オイラ人間にな...っち...まった」


ベッドに向けたフレイムの目は、先ほどよりも飛び出しそうな勢いで開かれた。
見方によっては半分出ているようにも見える。
オーダーメイドで作られせたキュルケのベッドには、彼女の姿はどこにもなかった。
代わりに一メイルはあろうかと思われるキツネが尻尾を丸め、気持ちよさそうに眠っていた。
赤の混じった体毛は朝日に反射してルビーのように輝き、寝顔もどこか、妖艶さをにじませている。
フレイムを鏡に押しやった少女はベッドの傍まで近づいていき、気持ちよさそうにベッドにまどろむキツネの体をゆさゆさと揺すった。


「全く主人もそうなら使い魔も同じですね。『キュルケ』も起きなさい。あなたのご主人はもう起きてますよ」

「え、いや、ちょ...キュルケって...え~」


フレイムは固まってしまった。キュルケと呼ばれたキツネは目を開けると、首を上に伸ばしながら「クァァァァ..」と息を吐いてベッドから降りた。
ベッドから降りた瞬間、いくつにも分かれた長い尻尾が優雅に部屋の中を踊り、そして床には垂れずにふわふわと宙に浮かんでいた。

フレイムがあっけにとられていると、またドアを開く音が聞こえてきた。
部屋に入って来たのは少女と同じ、学院の制服に身を包んだ少年であった。
身長は160サントあるかどうか、腕には長めのステッキを引っ掛け、黄色と黒の線が交互に入った帽子を頭に乗っけている。


「お早うございますフレイム氏・・・・っと、おはようございますルーナ嬢。また彼を起こしに来たのですか。わざわざ女子寮からご苦労様です」

「おはようございますロビンさん。あなたもフレイムさんを起こしに?」

「ははは、食道に行くついでに様子を見に来ただけですよ。それにしてもフレイム氏...あなた、また床で寝ていたのですか?使い魔を大事にするのは結構ですが貴族としてはどうかと思いますよ。いいですかフレイム氏?あなたの地元では別に良かったかもしれませんがここはトリステイン学院なのです。私やルーナ嬢だからいいモノを、他の誰かに見られでもしたらどうするのですか。貴族が相手に敬意を払うのは当然のことですがそれを知ら者もいるのですから、ちゃんとベッドを使う事をお勧めしますよ?ところで、ベッドといえばこの間...」


ロビンと呼ばれた少年は長々と話し始めるが、フレイムは止めなかった。というか全く聞こえていない。

ああ...まじかよ

フレイムの頭に、そんな言葉が浮かんで消えた。
部屋に立つ少女と少年、そして自分の足下に座りこんだキツネ。
いろいろと頭がこんがらがっているが、とりあえず今は...


「・・・・まあ、とにかくご飯食べにいこっか」


フレイムの口から言えたのはそれだけだった。







なんでオイラがこんな事に?
朝食後、フレイムは自室の椅子に座って頭を悩ませていた。
(なぜか)寝巻きだった服から学院の制服へは何とか着替えることが出来た。
布を巻かれる窮屈さから、なるべく楽にしようと胸元を開いた着方はキュルケにそっくりで、部屋に入るまでロビンになにか言われ続けたが無視した。
ちなみに肝心の杖であるが、不用心に机に置いていたのでそれを腰に差しておいた。
ベッドでは今は自分の使い魔となったキツネのキュルケが、舌でチロチロ舐めながら、尻尾の毛を整えている。
それを見て、フレイムはため息をもらした。
昨日までは自分が使い魔で、そこにいるご主人のキュルケがメイジであったはずだ。
それなのに今朝起きてみれば、それが全く逆になっているのだ。
急な展開についていけず、先ほどの朝食でもフレイムは終始、口を閉じていた。(喋らなかったというだけで、食べるものはきっちりと食べた)


「オイラがメイジかよ・・・・」


フレイムの口から、再び溜息が漏れた。
召喚されてからキュルケと一緒に生活を共にしてきたが、彼らが行っていることを見ていると『よくやるよな御主人たちは...』と常々思っていた。
自分はサラマンダーなのだ。人間のようにわざわざ昼寝出来る時間に本を開いて勉強して、日向ぼっこの時間にもだらだらと長い話に耳を傾ける。
一度、人間の授業を聞こうと耳を傾けたらすぐに眠りに入ってしまった。
こんな面倒なこと、人間にしか出来ないよ。
そう思っていたフレイムであったが、自分が今、まさしくそんな面倒な立場にいることを考えるとぞっとする。
今は無くなった尻尾の炎が消えてしまう気がした。


「やだやだ...はやいとこ元に戻る方法を考えないと」


というかオイラがメイジでご主人が使い魔になっていた。
となると、ルーナやロビンの本来の主人、ジョルジュの旦那やモンモランシーも使い魔になっているのか?シルフィードも?

他の仲間はどうなっているのだろうとフレイムが考えていると、ドアをノックする音が聞こえてきた。
フレイムは「あ~い」と返事をすると、一人の少年がドアを開いて入って来た。
黒い髪に幼さの残る顔。今の自分と同い年ではあるだろう少年の顔にはフレイムは見覚えがあった。


「フレイムなにやってんだよ。もうすぐ授業の鐘が鳴るぞ?いくぞ」

「さ、サイトか?」

「サイトか...ってお前、まだ寝ぼけてんのか?いいから早く出ようぜ」


部屋に入って来たのはサイトであった。
あっちでは主人が隣同士の部屋だったからよく見かけたし、以前は主人の命令で部屋に連れ込んだこともあった。
他の人間とは違う服を着ていたのは覚えていたが、今目の前にいる彼は、自分と同じ、学院の制服に腕を通していた。


「サイト...お前、メイジになったのか?えらくなったな~」

「フレイム、人が親切に呼びに来たのにそれはないぞ」

「だって。いつもお前朝からパンツを洗っては干して洗っては干してを繰り返してただろ?夜中には鞭で叩かれて...ホント良かったな~貴族になれて」

「してねえよ!!なんだ鞭にはたかれるってそんな趣味ねぇぞ俺は!?いいから行くぞフレイム。今日は外で使い魔と一緒に授業を受けなきゃならないんだから、お前のキュルケも起こせよ」


ああ、そうなんだとフレイムはサイトに相槌を打つと、座っていた椅子から立ち上がり、ベッドでくつろいでいたキュルケに恐る恐ると声を掛けた。


「ご主人...じゃなくてキュル、ケ?授業があるみたいだから一緒に着いてき...じゃなくて、行くよ」


フレイムは噛みながらキュルケに言った。使い魔になったとはいえ、キュルケを呼び捨て出呼ぶのも、命令するのも初めてなので変な気持になる。
意図が通じたのか、ベッドに横たわるキュルケの耳がぴんと上がり、体をひねりながらベッドから降りた。
それを見たサイトは、フレイムに怪訝な顔を見せた。


「お前なぁ...凄いの召喚したから使い魔大事にするのはいいけどよ、いい加減その口調と態度止めろよ。どっちが主人か分からねえぞ」

余計な御世話だよとフレイムは心の中でサイトに言い返す。


「まあ、それくらいお前の使い魔は立派だしな~。それに比べて俺の使い魔ときたら言う事聞かないは、気に入らないと引っ掻くは暴れるはでホント大変...」


サイトが自らの使い魔の愚痴を語り出した時、部屋の外から何か黒いモノがサイトの頭に乗った。
それは50サント程の大きさの、桃色の毛の猫であった。明るい桃色の毛が艶やかに伸び、猫なのにも関わらず黒色の服を着ている。
つり上がった目は明らかに怒っており、サイトの頭に上り終えると、サイトの額に前足を当てる。そして、「ンニャ゛ッ!!」と一声上げると前足を一気に引っ張っり上げた。
フレイムにはすぐに「あ、ルイズだな」と分かった。


「いででででデででッッ!!!!止めろルイズッ!!痛い痛い痛い!!せっかく治ったばかりなのに!!」


サイトは叫びながらフレイムの部屋を走りまわるが、ルイズの爪はがっちりとサイトを掴んでいるようで全く離れない。
暴れれば暴れるほどにルイズの爪が食い込んでいるのだが、どうやらサイトは気づいてないらしい。


「(メイジになってもサイトは変わらんな)じゃ、オイラ先行くからサイト、ドア閉めてってね」


そう言って「行くよご主...キュルケ」とキュルケに呼びかけ、フレイムは後ろ手でドアを閉めた。
ドアの隙間から「おいフレイム!!置いてくなってッ!ルイズをどうにかしてくれッ!!」と聞こえてきたが、とりあえず聞こえないふりしてドアを閉めた。







寮を出ると授業場所はすぐに分かった。
男子寮から外へと出ていく生徒達がちらほらといたので、そいつらについていくと、数十人の生徒達が集まっている場所へとやって来た。
サイトはさっき戸締りを任せたから遅れてくるわけだが、やはり以前、教室で会った人間達とは違う。使い魔もどこかしら異なるモノばかり。
フレイムがキョロキョロと辺りを見回していると、何処からか聞いたことのある声が聞こえてきた。


「きゅいきゅいん!いい、タバサちゃん?今日はお姉ちゃんのとっておきの魔法見せてあげるのね!!」

「・・・別にいい」


壁の方に生えている木の近くで、やたらと大声を張り上げている女の子がいた。
彼女が話しているのはどうやら木の根元に座っている、女の子だろう。


「あれは...シルフィードとタバサ?」


立っている女の子はシルフィードだと確定だ。だって、あんな馬鹿そうな大声と口調はあいつしかいないもん。
となると、座っている女の子は彼女の主人であったタバサという事になるが、一見、普通の人間と変わらない。
しかしフレイムが良く見ると、タバサの体が光っているかのように白い。
体もメイジの時と比べて一段と小さい。眼鏡をかけているのは前とは変っていないが。


「シルフィードの使い魔はフェアリーってことか?しかしあれをみていると・・・」

「んもう!タバサちゃん私の話を聞くのね!!」

「今・・・・読書中・・・・・後で」

「きゅい、何読んでるのね?」

「・・・・イーヴァルディの勇者シリーズ」

「きゅい?イーヴァルディの本にしては薄いのね。タバサちゃんの世界ではこれくらいのページなのね?」

「そう・・・・今、イーヴァルディが宿敵のライバルに攻撃を受けているところ」

「きゅいきゅい!!なんでどっちも裸なのね!?あ、でも確かにイーヴァルディが苦しそうな顔してるの!!」

「これから主人公が攻めに転じる・・・・」


なんの話をしてるんだあいつらは?というか、タバサはなんの本を読んでんだろ?
フレイムは心の中で疑問に思いながら、変な空間を作るシルフィードとタバサから離れ、他に誰かいないかと探した。すると、


「あ、フレイムく~ん!!」


女の子の声が後ろから聞こえ、フレイムが振り向くと、少し先の方から一人の女の子が走って来た。
茶色の髪を三つ編みにし、その付け根にはそれぞれルビーやサファイアなどの宝石で出来た髪止めを付けている。
首にはいくつもの首飾りをかけており、指輪も数えきれない。
ド派手な装飾に身を固めた少女を見て、少し戸惑ったフレイムだが、誰なのかはすぐにピンと来た。


「どうしたんだよヴェルダンデ。そんな重いものぶら下げて走ったら転ぶぞ」

「もう~!大丈夫だよ。それよりもさ、僕のギーシュ見なかった!?さっきから見当たらないんだよ」

ヴェルダンデに尋ねられたフレイムであったが、そもそもギーシュがどんな使い魔なのか知らないから、見たも見ないもない。というか見たくもない。
フレイムは「あ゛~」と口を濁した。


「さあ...オイラも今来たばっかだから、分かんねえな」

「そお?分かった。う゛~どこいったんだよぉギーシュぅ」


涙目になりながら辺りを見回すヴェルダンデの姿に、フレイムの胸が僅かにキュンっとなる。
しかしフレイムは冷静だ。落ち着け。こいつはこんな顔してるし、いやに宝石が似合ってるけど、


オイラと同じ「ズボン」はいてるんだから!!!!


「まあ、お前の使い魔に限って逃亡はないよ(溺愛してたし)。きっとそこらにいるだろうからもっとよく探してみなよ」

「・・・・フレイムくんも手伝ってぇ...」

「そ、それはヤダ。面倒くさいし」

「ううぅ...フレイムくんのケチ」


ヴェルダンデは「いいさ!もう宿題見せてあげないんだから」と言った後、つぶらな瞳に涙を浮かべ、走り去って行った。


「あいつ...雌雄どっちか分かんなかったけど、人間になっても分かんないな」


後姿を見送りながら、フレイムはポツンと漏らした。


「なにが分からないのですか?」


声を掛けられた方を向くと、ルーナの顔が至近距離に現れた。
突然の登場に、思わずフレイムは背中をのけぞらせて驚いた。


「うわふっ!!なんだよルーナか。びっくりさせんなよ」

「なぜ私がフレイムさんを驚かせなければならないのですか?勝手に驚いたのはそっちの方です」

むぅ、こういう人を小馬鹿気味にするような話し方は変わんねえな。とフレイムが思った後、ルーナの周りを見た。
どこにも使い魔らしいものはいない。ジョルジュの旦那も、どこかに行ってしまっているのだろうか。
フレイムはからかい半分にルーナに尋ねる。


「そう言えば、ルーナの使い魔は...ジョルジュはどうしたんだ?お前もヴェルダンデみたいに逃げられたのか?」


ルーナはフッと溜息を吐くと、今度は真剣に人を馬鹿にするような目でフレイムを見た。


「はぁ、フレイムさん。私が何の理由もなく使い魔に逃げられると思っているのですか?冗談は存在だけにしてください」

「え、ハナっから存在否定?」

「貴方が心配せずともジョルジュは森の畑にいますよ。何でも今日はキノコの収穫日なんだとか。モンモランシーと一緒に朝早く出かけて行きました」

「ええっ!!も、モンモランシーも!?」

「?驚くことですか?いつものことだと思いますが...まあ、彼には前日に時間を伝えてますから、多分大丈夫でしょう」


ルーナは淡々と言うがフレイムにとっては初めて知った事なのでそりゃ驚く。
いっつも学院の花壇で何か作っているジョルジュの旦那であるが、こっちでも場所は違えど、やっている事は同じらしい。(まあ、最近は花壇だけでなく外の方にも種をまいていることをフレイムは知っているが)

というか、使い魔になってもモンモランシーといちゃついてるんかい。

呆れて、フレイムの顔が引きつりそうになった時、生徒達の前に一人の女性が歩いてきた。
紫に近い長い髪が片目を隠し、髪の色と同じルージュを塗っている顔はかなり不気味だ。
背は女性としては高く、低く見ても180前半位はありそう。
出るとこは出ており、フレイムの主であるキュルケと同じような体つきであるが、不健康そうな白い肌は全くの正反対だ。
胸が開けた服と紫色のマントを身につけたその姿は、まさしく絵に出てくる魔女そのものであった。


「皆、揃ってるみたいね」


女性のメイジは生徒たちをざっと見渡すと、その顔には似合わないくらいはっきりとした声を出した。
それに気付いた生徒は、一斉に女性の方を向いてシーンと静まる。
フレイムも隣のルーナと同じく、女性の方を向いて姿勢を正す。

(あいつも元は使い魔なのかな?教師っぽいけど、一体誰なんだろ...)

フレイムが見当をつけながらその女性のメイジを見ていると、生徒が全員いることを確認して、続けて口を開いた。


「ではこれから使い魔との共同授業を始める。皆知ってるとは思うけど、この授業を受け持つ『毒雨』のレミアよ」


「いやお前が教師かよッッ!!!」


元使い魔には場の空気なんかは関係ない。
フレイムはその場で大声を張り上げてツッコンだ。



スポンサーサイト

47話 ついていない時ってトコトンついてない


品評会の準備は、何も寮の中だけで進められているわけではない。
フーケに襲撃された塔の傍にある花壇では、ジョルジュとルーナが話し合っていた。
先程まで紹介の場面を想定して練習していたのか、ジョルジュの手には数枚の紙が握られている。
外はすっかり暗くなっているが、寮から漏れてくる明かりと塔の近くにある警備用のランプのおかげで十分字は読めるようだ。


―サティ様が?―

「んだ。学校見学ってことで、品評会の日に学校に来るんだと。今日の朝にオールド・オスマンに呼ばれた時に聞かされただよ」

―それは楽しみですね。私も、マスターの御兄妹様ですと、マーガレット様とノエル様、それにステラ様は知ってますが、サティ様にお逢いするのは初めてですから―


ルーナが聞いたのは、品評会の日に学院に来るという末妹サティの事であった。
サティの事はジョルジュもそうであるしステラからも噂は聞いていた。

曰く、11歳でドニエプル家史上最強のメイジ?とか、

曰く、素手でドラゴンを倒したとか、

曰く、父親の使い魔を手懐けてしまったとか、

曰く、夜中に一人でトイレにいけないなどなど、半ば胡散臭いのもあるのだが、ルーナも主人とその兄妹が嘘をつくような人間ではないと分かっているため、
今まで聞いた噂から『竜と素手でも戦えるような凄腕のメイジ』というイメージを持っていた。
ルーナもそんなサティに会ってみたいと思っていたため、明日の来訪に、嬉しさを覚えていた。


―私も一目お会いしたいと思っていましたから、サティ様にお会い出来ると思うと、嬉しいですわ♪―

「ルーナも会ったらびっくりすると思うぞ?だども、サティもいい子だから、きっとルーナも気にいるだよ」


二カッと笑ったジョルジュに合わせて、ルーナも口を緩ませて笑った。


―フフフ...それは楽しみですわ―

「だろ?さて、んじゃぁそろそろ品評会の準備さ再会するだよ。初めの紹介はさっきみたくでいいだよ。あとは~なにか一つ芸のようなもんでもあればいいけど...ルーナってなんか特技みたいなもんあるだか?」

―ん~そうですね...―


両手で頭の葉っぱを撫でながら、ルーナは何を行おうかと考え始めた。
実はルーナ、ジョルジュが授業に出ている間に学院を隈なく歩き回り、品評会の情報を集めていたのだ。
大会の規模から開始時間、審査方法、審査員の数と年齢層など、そうした事を細かに調べて、どの様に主人と自分をアピールするかを密かに考えていた。
レミアの件はどうしたのかと言うと、当然、ルーナはロビンの提案した策を守る気はサラサラなかった。

ロビンやレミアはどう考えているのかは知らないが、品評会は使い魔だけではなくメイジも共に見られるのだ。
それは昼食時の事、去年品評会に参加したと思われる3年生の使い魔を呼びとめ、聞きこみをしたことで得た情報であった。
例年、品評会の優勝者は、使い魔とメイジで一緒に芸をしているのだそうだ。
実際、優勝候補と言われていた去年のメイジも品評会で使い魔に好き勝手やらせていたが、結果は別の使い魔とメイジであったそうだ。

自分たち「使い魔のみ」を見れば、確かにレミアが優勝する確率は高いだろうが、その主であるメイジも審査の対象になるとすれば話は別だ。
品評会というのはただ使い魔を見せるだけでは勝てない。どういう事が出来て、メイジはそれをどう上手く活用できるか、そういうお互いの協力が重要なのだ。
そうなると、レミアの優勝は厳しいとルーナは予想したのだ。

(レミアさんには悪いですが...ノエル様が足を引っ張りますでしょうし...優勝するのは難しいですわ)

ルーナは何をしようかと考えながらそう思った。
自分の主人であるジョルジュも問題があるとはいえノエル程ではない。勝ち目はレミアよりもある。
ジョルジュは「恥ずかしくねぇくらいの事はしよう」とは言っているが、ルーナとしては恥ずかしくないどころかなるべく上位に、ともすれば優勝すらも視野に入れているくらいだから、
ロビンの言う事など全くの無視であった。

(ロビンさんには悪いですが、別に私は協力するとは一言もいっていませんしね。『前向きに検討する』というだけですから)

相変わらずの黒さが見え隠れするルーナであったが、しばらく考えた後になにか閃いたのか、ジョルジュの方を向いて、ニコッと笑った。


―マスター、品評会の事ですが、少々協力していただけますか?―

「え?」


なにをするのか分からないままのジョルジュであったが、まあ、必要なのであろうとすぐに考え、

「大丈夫だけんど?でも、なにすればいいんだか?」

そう言うとルーナはフフッ軽くほほ笑んだ。

「ええ、それはですね...」

ルーナはジョルジュにスッと顔を近づけると、品評会で行う事について説明し始めた。







「あ゛~しみるわ~っ」


場所は変わってトリステイン学院の女性専用浴場。
大理石を使った豪華な浴場では、なみなみと浴室に満たされたお湯が湯気を上げている。
通常、生徒たちが入る時間というのは夕食の少し前か、夕食を終えた後が多く、その時間帯を過ぎると、女生徒で賑わっていた場所も一気に人が減る。
さらに、夜も更けた頃にはほとんど誰も居なくなってしまう。
そういった静かな時間に好んで入る者も何人かおり、本日の当直を務めている「土くれのフーケ」こと、ミス・ロングビルもその一人であった。
貴族の子供たちが使うために造られた豪華な浴場には、所々に石の彫刻などが立っており、それらの持っている壺や口からはお湯が流れて浴槽に落ちる仕掛けになっている。
今は必要最低限の明かりだけしか灯っておらず、薄暗い灯りの中に立つ彫刻や、浴槽に浸かるロングビルを妖艶に映し出している。
闇に隠れていて見えづらいが、少し離れた場所には大理石を使って作られたベッドがある。
生徒によっては使用人にオイルマッサージや、ネイルケアなどをしてもらっていたりする場所だ。
もっとも、今は使用人もおらず、広い浴室はガランと静まり返っているが。
そんな場所で水音を出すのは、お湯でその緑色の髪を湿らせて入っていフーケともう一人、


「お姉ちゃん、ババ臭いよ~その言い方」

「いいんだよ。アンタ以外誰も見ていないんだし。それよりエルザ、アンタちゃんと体洗ったのかい?」


フーケは自分の隣に浸かる少女、エルザの髪をわしゃわしゃと撫でた。
ブロンドに輝く髪からは湿り気を感じない。いきなり浴槽に入って来たようだ。


「ダメだろ!ちゃんと体洗ってからはいんなきゃ!ほら、洗ってやるからお湯から出な」

「後で洗うよ~誰も居ないんだからいいじゃない」

「だめだよ、ほら上がりな...ったく、前も言っただろ。浴槽に入る前に体と髪を洗うのがマナーだって」

(それって『人間』はでしょ?私・・・・吸血鬼なのに...)

「あん?何か言ったかい?」

「何も~」


二人は浴槽から出ると、フーケは近くに造られた石の長椅子にエルザを腰掛けさせると、傍にあった桶でお湯をすくってエルザの頭から勢いよくかけた。
その後、エルザの後ろに座ると部屋から持ってきた石鹸を泡立て、エルザの髪を洗い始めた。


フーケとエルザが知り合ったそのワケは、数日前に遡る。
別に寮の当直というわけではなかったのだが、その日の夜もフーケはこの浴場へと足を運んでいた。
そもそも、教員の居住区にも専用の風呂は設置されているのだが、フーケはそちらの方を使う事は少なかった。
それはこっちの方が断然広いのは勿論、教職員用の風呂だとミセス・シュヴルーズの長話に捕まったり、オールド・オスマンの使い魔のネズミが入ってきたり、
ともすればどこからか野郎の視線を感じたりと、全く疲れが取れないのだ。

誰も居ない広い空間を独り占め。その開放感と贅沢さ。偶に持ち込んだワインを一杯やるのがたまらない。

時々、女生徒が入ってきて気まずくなったりはするが、そんなの、月に1,2回程度だ。
そのため、フーケは時間に余裕がない時や疲れている時以外だと、大抵はこの時間に学生用の風呂を使っていた。


そんな彼女のゴールデン・タイムともいえる時に、ばったりとやって来たのがエルザだった。
彼女が日ごろの疲れを取りつつ無駄毛も取っていた時、エルザが後ろから声を掛けて来た。


『お姉ちゃんなにしてるの?』

『えっ?誰...って痛あ゛っ!!!切っちゃったッ!』

『ちょ、大丈夫?うわ・・・痛そ~』

『私とした事がとんだヘマ...ううう、思ったより傷が深いよぉ・・脛が地味に痛くなってきた。というかアンタ誰なんだい?こんな時間に子供が風呂入りに来るなんて怪しいじゃないか』

『こんな時間に脛毛処理しているお姉ちゃんの方が断然怪しいよ!』

『うっさい!!いくら普段着がローブだからって気を抜くと大変なことに・・・・やば、こっちの方が大変なことに...』

『とりあえず止血しなよお姉ちゃん!!(うわ~足からドクドク血が・・・さすがにヒく...)』


何とも奇妙な出会い方をした二人であったが、その日からというもの、フーケとエルザは夜の風呂場でいつも合うようになり、今もそれが続いているというわけである。
エルザが何者なのか未だに分からないフーケではあったが、本来盗賊である彼女にとって、別段気にすることもなかった。お互い、ワケあり者同士という事にしている。
むしろ子供の世話は得意な彼女にとっては、エルザの頭を洗っていると遠い地に住んでいる妹の事が頭をよぎる。

(テファ...今頃何してるかな)

エルザの髪をわしゃわしゃ音を立てながら洗い、少女の一日の汚れを落としていく。
耳周りも指で丁寧に擦ると、エルザの口から「うにゅ~」と気持ちよさそうに声が漏れた。
最近はエルザの頭や体をフーケが洗っており、もはや夜の日課となりつつある。
毎回、始めようとするとエルザは嫌がるのだが、一旦始めると大人しくなるので、エルザもまんざら、嫌いではないのだろう。


「これでよしっと。さ、頭流すから目ぇつぶっときな」


そう言うとフーケは桶にお湯を汲むと、エルザの頭にかけて泡を流した。
流し終えた後、エルザが猫のようにプルプルと頭を震わせて水を飛ばしてきた。


「ほら、次は体洗うんだからジッとしてな」


フーケは手元に用意していた布に石鹸を付けると、立ち上がろうとするエルザを座らせようと手を引っ張った。
しかしそれが嫌なのか、エルザは不満そうに口を尖らしてフーケを見た。


「いいよぉ~お姉ちゃん。自分で洗うからぁ~」

「ガキが何言ってるんだい。そう言ってるけど、ちゃんと洗えてないじゃないか」

「お姉ちゃんが細かすぎるんだよ!」

「いいからジッとしてなって!」


このやり取りも段々習慣化してきた気がするなとフーケは思いながら、石鹸をつけた布でエルザの背中を擦ろうとした時、




「土くれのフーケだな」


浴場に響いた声に、フーケとエルザはハッとなって辺りを見回した。
するといつの間に入ってきたのか、二人から大体5メイル程離れた場所、薄暗い明りを体に受けて光る彫刻の後ろに何者かが立っていた。
声からすると男だろうか。
顔は白い仮面に覆われて誰かは分からない。
身に着けているマントは立ち昇る湯気によって僅かに動いている。


「隠しても無駄だ。我らはお前のコトは何でも知っている」


仮面の向こうからクククと笑い声が聞こえてくる。
仮面に空いている二つの穴からは、こちらをじっと見てくる視線が突き刺さってくる。
フーケは黙ったまま、仮面の男を見ている。


「近い将来、アルビオンでは革命が起こり、無能な王家は潰れる。そして有能な貴族が政を行うのだ。土くれのフーケよ。我らに協力する気はないかね?」


仮面の男の問いに答えず、フーケはエルザを片手で抱えると、自分を盾にするような形で、ゆっくりと浴槽へと動いた。
男はそれを見てククククと笑うと、さらに続けた。


「まあ、嫌といっても協力してもらうがな。この前は不覚を取ったが、今のお前は杖をもっていない只の女。私がその気になれば、そちらの娘もどうにでも出来るという事を忘れるな」


仮面の男は杖を取り出しながら、一歩、フーケに近づいた。


「我らに組み入ってもらうぞフーケよ。いや、マチルダ・オブ・サ『錬金』ウボアァッ!!?」


仮面の男が一歩前に出た瞬間、仮面の男が派手に足を滑らせ、一瞬だが体を宙に浮かせた。
男は派手に前のめって倒れ、浴槽の淵に丁度顔の部分を叩きつけ、仮面の割れる音と鼻が折れたような鈍い音が浴室に響いた。
それを見ていたフーケの手には、先ほどまではなかった杖が掴まれてあった。

忘れそうではあるが、彼女はバリバリの盗賊なのだ。それも凄腕の。
当然、生活の中で自分が無防備になる場面を想定しているのは当たり前だ。
彼女は風呂に入る時、常に浴槽の中に杖を忍ばせていたのだった。
それを知らずに近づいてきた仮面の男の足下の水を、「油」に錬金して滑らせたというわけだ。


「さて...いろいろ言いたい事はあるけど」


そんなフーケは杖の先端をフッと吹くと、鼻の部分を抑えて悶えている男を冷めきった眼で見た。








しばらくした後、既に着替え終わったフーケとエルザは浴場にて、仮面の男の尋問を行っていた。
仮面の男は堅い石の床に足を畳んでいわゆる「正座」で座っており、ひび割れた仮面の隙間からは鼻血らしきものが出ている。
杖は悶えている時にフーケに奪われてしまい、二つに折られた杖が床に転がっている。
身に着けているマントや帽子は、先程エルザに掛けられた所為で、びっしょりと濡れていた。


「はい、じゃあ質問。アンタが学院に忍び込んだ理由は何だい?簡潔に答えな。ちなみに私の事本名で言うんじゃないよ」


フーケは男から少し離れた場所から、学院に侵入した理由を尋ねた。
このまま学校側に覗きとして引き渡してもいいのだが、どうも自分絡みのようなので、
フーケは浴場全体に「サイレント」をかけ、エルザと二人、仮面の男の正体を暴こうとしていた。


「フッ、盗賊に身を落とした今でも、自分の名を汚したくないのか?だがお前が大事にしているその名を再び世に出すことが出来るのだぞ
サウス「エルザ~火ぃつけて」ってちょま、ぐあああああぁっ!!!!」


男が止める間もなく、エルザが火のついたマッチを男に投げつけると、服は一瞬で火に包まれ、勢いよく燃え始めた。
男は火を消そうと必死に転げ回るが、床に垂れている程度の水では、火の勢いは抑えられない。
しばらく男が転げ回るのを見ていたフーケは、エルザに合図を送ると、二人で手に持った桶から水をかけ、男の服についた火を消した。
床でぐったりとなった男の姿はさっきと全く異なり、緑色だった服は全体的に黒く焦げ、仮面も白かった顔がヒビと熱で残念なことになっている。


「あの...すいません。今度、僕のいる組織がとある仕事を行うので、貴方様に手伝ってもらいたい事があったのでやって来ました」


急に丁寧な口調で喋り出した男を気持ち悪そうに見ながら、フーケは腰に差していた杖を持つと、「錬金」の魔法を詠唱し、言った。


「初めからそう言うんだね。あ、言っとくけどまだアンタの体は「油」まみれだから。また火だるまになりたくなかったら言葉に気をつけな」


フーケは悪魔じみた表情を浮かばせながら男を睨んだ。
男にかけられた水は、先ほどのフーケが詠唱した「錬金」によって油へと変わっていた。
もし何かあれば、男の後ろに立つエルザから火のついたマッチが投げられて、さっきと同様火に包まれる。
水で消されてもまた油に錬金されるため、杖を奪われた男には抵抗する術がないのだ。
加えて場所は大浴場。油に錬金するための水は100人火だるまにしても余るほどの量がある。
くどいようだが彼女は盗賊なのだ。拷問も少しは心得ている。


まさしく終わらない。終わらないのがゴー○ド・エクスペ○○ンス・レクイ○ムなのだ。
そんな世界に入ってしまった男は、よろよろと上体を起こすと、フーケの方を向いた。


「わ、我らの目的は聖地を奪還することだ。そのためにアルビオンで革命を起こし新たな国家を作るのだ。マチ...いや、土くれのフーケよ。我らに協力するのだ!!」

「エルザ~二本目お願い」

「は~い♪」

「待てっ!別に今何も悪い事は言ってグアアアアアアアアアッッ!!!!」


本日二度目の火だるまである。
またしばらくした後に、エルザとフーケは火を消した。
帽子とマントは燃え落ちてしまい、仮面の上から出ている髪の毛が若干黒く炭化してる。
着ている服も大部分が燃えてしまい、裾の部分が完全に無くなっている。
仮面なんて元々の白さは無くなって若干灰色に近い。熱で罅がさらに悪化したのか、下の部分が取れてアゴヒゲが見えてる。


「んで、そんな壮大な目標を掲げている貴族様が、女風呂に覗きにやって来たというわけかい」

「ち、違うッ!!僕はそんなつもりで来たのではない!!私をそこいらの下劣な者と比べてもらっては困る!!」

「いやぁ鏡で見てみ。女の部屋と風呂場に侵入した、焦げた変態仮面がいっから」

「ぬうっ!言わせておけば!!」


焦げた仮面の男は怒ったようで、何処にそんな体力があるのか床に倒れた状態から勢いよく立ち上がると、目の前のフーケに反論した。


「お前の体に興味などはない!!行き遅れの分際で調子に乗るなッ!!」

「え、じゃあエルザの体目当て?」

「その通り!!・・・・ってえ、ちょ、違う!!」


勢いなのかそれとも本音が出てしまったのか。男の口から出てきた肯定の返事に、フーケの目はもはや人を見る目ではなくなった。
エルザは笑いを必死にこらえながら、男に聞こえるくらいの声で、怖がる素振りをして見せた。


「こ、こわいよぉ!お姉ちゃん」

「子供の体が本当の目的かい・・・・貴族ってのはとことん腐ってやがるね!恐ろしいよ!!」

「ちょ、待てっ!!今のは勢いで口が滑っただけだ!!決して僕にそんな趣味はないッ!というか人の事二回も火だるまにしているお前らの方が恐ろしいわっ!」

「エルザ、やっておしまい」

「ラジャー♡」

「落ち着け、君たちが怒るのは無理はない。僕も僅かに邪な心があったことは認める!そこは認めようっ!しかし考えるんだ、そう簡単に人に火を付けるのは人として間違って「えい♪」ぐあああアアアアアッッッ!!!!」


必死の弁明も報われず、男は一日の終わりに三度目の火だるまになった。
先の二回でかなり体力を奪われたのか、男もそんなに暴れ回る様子はなかった。
フーケはチッと舌打ちをすると水を掛けて火を消した。
流石に、三度の着火に耐えうる服はトリスタニアの世界にはなかった様で、男は仮面と下着の切れ端を除いて全て燃えた状態になっていた。
仮面の下半分はすでに落ちており、もう鼻辺りまで見えてる。
衣服といえるものは纏ってはおらず、「仮面の男」というよりは、「仮面のみの男」と言った方が正しいかもしれない。
財布までも燃えたらしく、辺りにはトリステインで造られた新金貨が散らばっていた。
入って来た時と比べるとかなりみずぼらしくなったが、男はゼーゼーと息を荒げたまま、フーケに向かって言った。


「あの...もう協力とかそういうのはいいから、このまま見逃してくれないだろうか?」

「エルザ~?そろそろ人呼んで。女子の浴場に仮面だけの男がいるって」

「悪魔か貴様はぁ!!」


そう叫んだ男の声はもう泣いているように聞こえた。
フーケはヤレヤレと首を横に振ると、


「アンタが何者なのか知ったこっちゃないが、ここでこれ以上揉め事起こされて私のコトばらされても困るんだよね。さっさと出て行きな。
今回は見逃してやるさ。今度また学院にやってきたら、次はその粗末なモンも一緒に焼いてやるか潰してやるから、覚悟するんだね」

「くっ・・・・覚えてろ」


男はヨロヨロと床から立ち上がると、床に散らばった金貨を拾おうとしたが、


「ちょ、待ちなよ。アンタ、なにしてるんだい?」

「なにっ...て金貨を拾おうと」

「迷惑料だよ。そのまま置いて行くんだね」

「・・・・・・・・ッッッ!!覚えてろ!!」


男は捨て台詞を浴場に響かせると、ドカドカと出口の方へと歩き、乱暴に脱衣所へと出て行った。
エルザはフーケの元に走り寄って足にしがみつくと、ボソッと声を漏らした。


「ああいう人って...ホントいるんだね」

「まあ、春だしね・・・・ああいうのは多くなるから、気をつけなよ」


フーケはエルザの髪を撫でながら、仮面の男が言っていたことを思い出した。


『近い将来、アルビオンでは革命が起こり、無能な王家は潰れる』

『アルビオンで革命を起こし新たな国家を作るのだ』

「王家は潰れる・・・・ね」


フーケはチラッと床に散らばった金貨を見た。
数は定かではないが、ざっと見ても30枚は優に超えている。

臨時収入も出てきたことだし、潰れそうな王家とやらでも見にいこうかね・・・・


風呂場の湯気に顔を湿らせながら、フーケはふと、心の中でそう思った。







風呂場での事件が誰にも知られることなくひっそりと終わる中、学生たちは品評会へと準備を進めていった。


ある者は異世界での知識を総動員して、


「よし、これなら大丈夫だ!!絶対にウケる!!」

「ちょと、サイト...ホントにそれやる気なの...」

「心配すんなってルイズ。俺の世界でこれを見て笑わない奴はいないんだから!」


またある者は使い魔の能力を最大限に活かし、


「フレイム~品評会の時はお願いね~♡大丈夫よ、派手に火を噴けば優勝なんて簡単よ♪」

(ご主人様いい加減だなぁ・・・まあこんなノリだし、オイラも面倒臭いからいいけど)


またある者は力を合わせて優勝を目指す。


「んじゃあ、オラがルーナに合わせればいいんだな?」

―ええ、お願いします。ああ、こちらは既に完了しました。マスターの方は?―

「こっちも完了だよ。だども、ちゃんと本番までに育つか心配だよ」

―フフフ...大丈夫ですわマスター。さあ、もう一度練習しましょう―

「んだ」


勿論、メイジだけではなく、使い魔も品評会への想いを募らせる。
あるモノは友のため


(レミア嬢...私はあなたの優勝を願っておりますよ。主には悪いとは思いますが・・・)

「ジョルジュったら今日も来なかった。いっそ私の方からジョルジュの部屋に...ってダメよ!貴族の娘が、結婚前なのに自分から行くなんて
...って結婚?そうなるとジョルジュって婿養子に・・・・」ゴロゴロブツブツ

(こんな調子ですし...ハァ)


己のため


「お姉さま...もうそろそろ休憩するのね。飛んでばかりでシルフィも疲れて来たのね」

「まだまだ...次は急降下しながら回転して火の輪くぐり...」

「きゅいーっ!!!もう駄目なのね!!体力の限界なのねーッ!」

「全ては勝利のため...ご飯が欲しければ・・・勝つのだ」

「お姉さま!?キャラが違うのね!!」


そして自らの主のため


「ゴホッ!ゴホッ!ご、ごめんなレミア...風邪ひいちゃって、品評会の準備が出来なかったな」

(ああああノエル様・・・・あの前粒吸血鬼に毎日振り回されている所為で、体調をお崩しになってしまって...)

「せ、せ、せっかくだけどゴホッ!お前の紹介だけで終わらすしかないか・・・」

(ご安心下さいノエル様!!貴方様の優しさだけで、レミアはいくらでも頑張れます!!必ずや貴方様に優勝を届けてご覧にいれます!!)

「お兄ちゃ~ん。駄目だよ外に出てたらぁ、もっと悪くなっちゃうよ?ホラ、もう中に入って寝よ」

(こんのクソ吸血鬼がぁぁぁぁー!!!私とノエル様の愛の空間に入ってくんじゃないよーッ!!!!)



様々な思いが交錯する中、刻々と時間は過ぎていった。
そしてついに、トリステイン学院では品評会当日の朝を迎えたのであった



46話 自覚がないのが一番タチが悪い


使い魔品評会といえば、毎年学院で行われる恒例行事の一つである。
簡単に言えばその年に召喚された使い魔を公式の場で見せ合う、言わばお披露目会のようなものなのであるが、その規模は何故か大きい。
学院の生徒、教師陣は勿論であるが、国のお偉方もやってくるこの行事は、2年生の生徒達にとっては、その年活最大のイベントと言っても良いぐらいなのである。
召喚された使い魔がどれほどなのかと使い魔を見るだけではなく、召喚後の短期間にどれだけ使い魔と親しくなれたのかも見られるという、メイジ本人としての力量も見られるのだ。
そのため生徒は品評会のために色々と準備をするのだが、生徒によっては召喚した後から準備をしている強者もいるくらいだ。

なんせ使い魔とメイジとしての力量が試されるこの品評会、もちろんその中で優勝でもすれば大変な名誉であるし、過去にはこの品評会で魔法衛士隊にスカウトされた生徒もいるのだから、いかにこの品評会に力が入っているかが分かる。
しかも今年はあのアンリエッタ姫がやってくるということで、学生たちのテンションは例年以上になっていた。

そんな大々的な行事も既に開始まで秒読みの段階、朝の教室でも品評会の話で持ち切りなのだがその中で一人、机に突っ伏している少女がいた。
その少女の名はルイズ。彼女はワイワイと騒いでいる教室の空気と反比例して、落ち込んでいた。
原因はいうもなし、使い魔品評会の事であった。


(どうしよう...もうすぐ品評会じゃない...)


もちろんルイズも品評会の事は頭にあった。
しかし、使い魔であるサイトがギーシュと決闘し、フーケの捜索に参加したりと、慌ただしい日々を過ごしている内にすっかり忘れてしまっていた。

いや、忘れようとしていた。


(姫様の前で...どう発表すればいいのよッ!!?)


ルイズの悩みは彼女の使い魔、サイトの事であった。
ギーシュとの決闘以降、学院の中でサイトの名は結構広まっている。
「貴族に勝った平民」として学生の間ではちょっとした話題になっており、使用人たちの間では「我らが剣」と言われて英雄扱いされている程だ。
しかし、品評会は学院の人間だけではなく国のお偉方が見に来るのだ。
いくらサイトが使い魔でも、そんな大事な場所でサイトを上がらせて、
『これが私の使い魔、平民のサイトですわ!!オホホホホッ!!』
なんて言えるだろうか?否、言えない。絶対冷やかな目で見られるか、笑われるだろう。
人一倍、人目を気にする彼女としては当然気が進むはずもない。
特に今度の品評会では『あの』姫様がいるのだ。ルイズの気持ちはさらに落ち込んできた。
なにか一つでも自慢できるものか、芸でも出来れば少しはマシなのだけれども、


(サイトって何か出来たっけ...少し剣が出来て...あ、あと最近下着洗うの上手くなったて言ってたわね)


そう言えばサイト、使い魔になってから下着の洗濯が上達したと先日話していた。
何でもシルクの下着はもうお手の物だとか。それならば...
『これが私の使い魔、平民のサイトです!!特技は下着洗いですわッ!オホホホホッ!!』

先程よりも重たく感じる頭を、ルイズはさらに机に押し付けた。
なんでわざわざそっちを言う?「剣が使える」方が何十倍もいいのになんで「下着上手に洗える」のを全面的に押し出したのか。
自分への恥ずかしさと馬鹿さに、このまま机になれればいいのにと考えていたが、その時、ふと横から声をかけられた。


「ちょっとルイズ、何うつむいてるのよ。朝から元気ないじゃない」

その声にルイズはぴこっと耳を動かして顔を上げた。
いつの間に教室に入って来たのか、モンモランシーがルイズのすぐ横から、慈しみに満ちた目をこちらに向けている。
彼女のシンボルでもある金髪の縦ロールは軽く揺れながらキラキラと光り、ふんわりとミントの香りが漂ってくる。おそらく新しく作った香水なのだろう。今まで嗅いだ事のない匂いだ。


「ほっといてよモンモランシー。今、考え中なの」

「考え中って...どうせ品評会のことでしょ?ルイズったら考えすぎよ。只、使い魔を紹介すればいいだけじゃない」

「私の使い魔はその紹介だけでも大変なのよ...」


普通に紹介出来る使い魔ならこんなに悩まない。
モンモランシーの使い魔はルイズの嫌いなカエルだから別段羨ましくないが、上機嫌に話してくる彼女にルイズは軽くイラついてきた。

モンランシーは自覚がないだろうが、舞踏会以降、ルイズはおろか教室の女生徒にとって、彼女はかな~りいやな存在と化している。
別にイジメをしているとか、誰かの悪口を言っているわけではない。彼女自身は普通に振る舞っていると思っているのだが...


早く授業が始まらないかと、ルイズはなんともなしにモンランシーを挟んだ隣の方へと目をやったが、いつもなら隣にいる筈のジョルジュがいない。
思わずモンランシーにジョルジュのことを尋ねそうになったが、声を出かかったその瞬間、口から声が出る前にルイズ自身の手がそれを塞いだ。


(あ、危なかったわ~)


ルイズの背中につーっと汗が流れたのなど知らず、モンランシーは左の薬指につけた指輪を見て顔を綻ばしている。
そう、彼女に「ジョルジュ」、「指輪」、「舞踏会」なんかのフレーズは今の学院では御法度なのである。



その理由は、彼女の左薬指に光る小さな指輪であった。







舞踏会以降、モンモランシーは左の薬指に指輪を常に付けていた。
宝石ではなく、蔓と花で作られた変わった指輪であるが、彼女を知る者にはその送り主は言わずとも分かる。
指輪の話題は当然、教室の中で一気に広まった。
一度、教室の女子が集まってそのことを問いただした時、モンモランシーは指輪を嬉しそうに見つめながら、


『これ?この指輪ね...舞踏会の日に、ジョ、ジョルジュから貰ったの』


そして、その後に顔を真っ赤にしながらプロポーズに近いセリフを言われたことを話すと、女子のテンションは最高潮になった。
愛する人に舞踏会で指輪をもらう。
それでプロポーズ&一緒にダンスなど、勝ち組以外の何者でもないではないか。
モンモランシーはそのことを嬉しそうに女生徒達に話し、その後ののろけ話も当初は皆、黄色い声と暖かい目で聞いていたのだ。


いいなぁ!

羨ましい!

私もあの人に言われたいわ!

死ねばいいのに!



ルイズも最初のうちはとても羨ましかった。
そりゃ、ルイズも17歳の立派な乙女なのだ。
そんなロマンチックなシチュエーションで指輪をもらってそんなこと言われたいと思う。

しかし、人の幸せというのは2日も続けば「幸せボケ」となり、それ以上続けば「幸せバカ」となることを、教室の生徒達は知ることになる。
舞踏会から数日経っても、モンモランシーののろけ話は決して止むことはなかった。
少しでも指輪かジョルジュの事を口に出せば、昨夜二人で夜の散歩をしたとか、香水の材料を探しに森の泉に行って来たとか、髪を梳かしてもらったとか、そんな話を幸せそうな顔で休みなしに聞かされるのだ。
本人は幸せいっぱいなのだろうが、聞いてる方としては溜まったものではない。
唯でさえ、モンモランシーとジョルジュは二人でいることが多い。以前はモンモランシーも人前では自重していた様に見られていたが、ここ最近は教室だろうが食堂だろうが人目を気にせずにジョルジュにべったりとするようになった。しかも、ジョルジュの方は自覚なく彼女に応えるから余計にタチが悪い。

今まで『トリステイン学院 恋人の会』では、モンモランシーとジョルジュの二人は「ベストカップル」として認定されていたが、(かつてはギーシュやマリコルヌなんかがそれに異議を唱えていたが、無視された)それがここ最近のモンモランシーののろけ具合に、遂に3代目会長のキュルケは『スクエア級のバカップル』の称号を密かに送ったのであった。(男は勿論、女性から見ても「死んでくれ」と思えるレベル)

そんなモンモランシーは今日も絶好調である。


「ジョルジュ、朝からオールド・オスマンに呼ばれたのよ。一体何があったのかしら」

(聞いてない、別に聞いてないわよモンモランシー...)

ルイズは心の中でツッコむが、モンモランシーが次に何か言う前に、ルイズは口を挟んだ。


「そういえばモンモランシーぃ?さっき品評会の事言ってたけど、アナタこそ準備してるの?」

「私?そうねぇ...まあ、無難に行くつもりよ。ロビンの事悪く言うわけじゃないけど、やっぱり他の人のを見ると、賞なんて狙えそうにないもの...」

そう言うと、モンモランシーはチラッとキュルケとタバサの座る席を見た。
鏡を見ながら化粧を整えているキュルケが、隣に座っているタバサに話しかけている。


「ねぇ、タバサもちゃんと品評会の準備してるの?あなた最近どこか出掛けてたじゃない?」

「・・・大丈夫。私の勝ちは揺るがない」

「あら、自信満々ね。でも私のフレイムも優勝目指してるんだから、友人だからって勝ちは譲らないわよ♪」

「・・・負けない」


何とも余裕のある会話が上の方から聞こえてくる。
しかし、キュルケはサラマンダー、タバサはウインドドラゴンと、二人の使い魔を見ればそれも当然のことであるが、ルイズにはそれが悔しい。
ルイズが唸っている横で、モンモランシーはタバサのいるさらに隣を指で刺した。


「あの二人が本命だろうけど、ノエルのコアトルも案外凄いわよね」

「そういえばそうね...なんだかんだでコアトルって結構珍しいし、それにノエルのコアトルって何か凄い大きくなったわね」

「そうなのよ。もしかしたらノエルのコアトルが優勝するかもしれないんだけど...それより...あの娘誰?」


モンモランシーが指差した席には、ブカブカの制服を着た小さい女の子が座っている。
多く袖の余った長袖の制服に身を包んで、教室の中にも関わらずつばの広い帽子をかぶっている。
ニコニコと蒼い瞳を輝かせながら席に着いているが、どっからどう見ても学院の生徒じゃない。
タバサもそれに気づいたようで、隣にいる少女に声をかけている。


「・・・なぜあなたがここにいる・・・彼は?」

「ん~お兄ちゃんのこと?お兄ちゃんねぇ、なんだか今日はガッコー行きたくないってベッドから出てこないから~エルザが代わりに来たの♪」

「・・・その制服は・・・・」

「これ、お兄ちゃんの服だよぉ。だって生徒なんだから制服着てこなくちゃダメでしょ?だからお兄ちゃんの借りて来たの」

「・・・・あの若白髪め」ギリギリ

「あら、そういえばタバサ、その隣の子だれなの?タバサの知り合い?」

「・・・・この娘は・・・・・わ」

「お姉ちゃんこんにちは!私エルザっ!ノエルお兄ちゃんのぉ~使い魔になるのかしら?」

「え、ノエルって、ちょ、どういう事なのタバサッ!!?」

「・・・・・おい小娘」

「あれっ?違う?だってノエルお兄ちゃんが私のご主人様になったんだからぁ、人間でいうとつか「ちょっと黙ってろ」ムガムガムガッ!?」

「タバサッ!?そう言えば貴方と一緒にノエルも見なくなったけど、あなた彼と何か...ムガッ」

「二人共喋るな」


何故だかタバサがキュルケ、そして女の子の口を押さえつけて揉め初めた。
ルイズとモンモランシーも様子を見ていたが、結局あの女の子が誰なのかは分からないままである。
奥の席で、ハァハァとマリコルヌが息を荒げていたのと、ガタガタと机が動いていたのは見なかったことにした。


「・・・・しかし、タバサのドラゴンもそうだけど、キュルケはサラマンダーにノエルはコアトル、ルイズもサイトって人間の使い魔召喚してるし・・・うちのクラスって凄いのか変なのか分からないわね」


ボソッと呟いたモンモランシーの言葉に、ルイズはつい反応してしまった。


「まあ、珍しさじゃ他のクラスには負けないけど...それに、ジョルジュのルーナだって、あっ」


しまった、と思った時にはもう遅かった。
先程までの雰囲気とは明らかに違う、甘い空気を漂わせ、モンモランシーはルイズに少し寄って饒舌に語り始めた。


「ジョ、ジョルジュはそういうの気にしないと思うわ?そ、そう言えば聞いてよルイズ。ジョルジュッたら酷いんだから。昨日の夜にジョルジュに髪を梳かしてもらったんだけど、『あれ?モンちゃん枝毛あるだよ?』なんて言うのよ?酷いと思わない?だっていくらジョ、ジョルジュと私の間だからって、そういうのは・・・・」

ああ、モンモランシー...あんたそんなこと言うコじゃなかったのに...というか何よ枝毛って...知らないわよアンタの髪が枝毛だろうが直毛だろうがチリ毛だろうが。


早く授業、始まらないかな。それかこの金髪ロールの飼い主来ないかしら。
教師でもジョルジュでもいいから早く来て欲しいと願うルイズの耳には、聞きたくもないのろけ話とマリコルヌの荒い息遣いが届いてくるのだった。


「ね、ねえルイズ、聞いてる?ジョルジュって結構香水にうるさいみたいなの。この間もね、新しいのを作ってたんだけど...」

「ハァハァハァ・・・エルザタン...ブカブカの服・・・・ハァハァハァハァハァハァ・・・イイ」







混沌とした教室での授業も終わり、夜を迎えた学院内では2学年の生徒達が動き始める。
終始話題となっている品評会までは既に間近に迫っており、各々使い魔と準備を進めているのであった。
ある者は自室でスピーチの練習を、またある者は外で使い魔と行う芸の練習をしているが、それは全く準備をしていなかった彼女も例外ではない。




「とにかくッ!!もう品評会まで時間がないのッ!サイト、アンタなにか出来ないの?」

「何って...お前のパンツの洗濯とか?」


そう言うと、藁束から立ち上がったサイトは近くに置いてあった洗濯かごからルイズのパンツを取り出すと、ベットに腰かけているルイズに向けると、


「いや~俺ってこういうのに才能あるんじゃないかな?洗いづらいシルクのパンツも今じゃどんなに汚れていても真っ白に洗える自信があるね」


首をうんうんとうなづかせながら、自信たっぷりに喋るサイトではあるが、それとは裏腹、ルイズの顔は血管が浮き出そうなほどに赤くなっている。


「あ、ああああ、あんたねえええぇえ...そ、そおんなのを貴族の前で見せるつもりぃ?」

「逆に新鮮じゃね?あ、そうだ!いっそシエスタからメイド服借りて『特技は下着洗いです♡』って言った後にパンツ早洗いするってのは?ほら、なんかのマンガで読んだけど貴族って結構特殊な趣味の人多いんだろ?だから俺の女装とお前の下着で観客のハートをガッチリ掴んで...」

「その前に私のハートが停止するわあああああっ!!!」


ルイズはベッドから勢いよく飛ぶとサイトの顔面に膝を突き刺した。


「ベンッ!!」


サイトは奇妙な声を出しながら床にダウンする。それを見下ろしながらルイズは叫ぶ。


「あんたねぇ、そんなもの品評会で見せれるわけないでしょうが!今回は王宮から姫様も来るのよッ!?ただでさえアンタを人前で紹介するのも一苦労なのにメイド姿でああああアタシのパンツ洗うですってぇ!?どう考えればそうなるのよッ!」

「け、健全な少年の頭の中はいつだって無限の想像力があるんだ...」

「消してッ!お願いだからアンタの頭の中ゼロに戻しといてよ!!」

「ルイズも『ゼロ』なだけに?」プッ

「そうね、じゃあ手始めにアンタの存在を『ゼロ』にするわ」


いつの間にやら手に持っていた杖をゆっくりと自分に向けながら詠唱を唱え始めたルイズを見て、サイトは倒れていた床から慌てて立ち上がると、手を前で横に振りながらルイズに言った。


「ちょ、落ち着けってルイズ。要はあれだろ?貴族や姫様なんかのお偉方にウケる芸を見せればいいってことなんだろ?」


その言葉にルイズはピクッと反応した後、杖を降ろした。だがその目はうさん臭そうにサイトを見ている。
目の前のサイトはなぜが自信がありそうな表情をしているが、これまで共に生活してきた中で、彼のこういった顔をしている時は大抵ロクなことがない。


「そう簡単に言うけどね、タバサやキュルケの使い魔もいるのよ?並大抵のことじゃ驚かないわよ」


ルイズは注意するようにサイトに言うが、サイトは余裕そうな顔を浮かべながらルイズに親指を立てる。


「大丈夫だって。他の使い魔には到底マネ出来ないようなモン、見してやるからよ!」


自信満々言うサイトに、ルイズは「ま、まあ、犬がそれくらい言うんだから、大丈夫なのかな?」とちょっと胸をどきどきとさせながら思ってしまった。
顔をちょっと赤くさせながら、ルイズは胸を張りつつサイトにもう一度言う。


「ほ、ホントに大丈夫なのね?皆がアッと言うようなことをやってくれるのね?」

「ホントはもう少し準備する時間が欲しかったけど...まあ任せとけって。こう見えても、あっちの学校じゃ『一発屋平賀君』って呼ばれてたんだ。文化祭、修学旅行、人が集まる場所でオレが活躍しない時はなかったんだからな」

「・・・?なにが分からないけど、そう、それなら安心だわ」


品評会は案外上手くいくかもしれない・・・
それどころか、優勝も出来ちゃったりするんじゃないかしら!?


さっきまで紹介すら危うく思っていた彼女の心は180°転換し、優勝すら確信しており心の中でほくそ笑むルイズであった。

自分の使い魔が何をするのかを聞いた後、彼女は部屋の中で再び叫ぶ事になったのだが







(ああ...わが主、あなたを欺く使い魔をどうかお許しください)


ルイズの部屋から離れた場所にあるモンモランシーの部屋では、使い魔のロビンがテーブルの中央に座りながら、目の前にいる主人に対して、心の中で謝罪をしていた。
その体にはモンモランシーと同じ赤い色のリボンが巻かれており、彼の周りにはテーブル脇に散らかるフラスコと同様に、様々な色のリボンが散らばっていた。


「うん...やっぱり私と同じ、赤が似合うわねロビンには。品評会の時にはこれで出よっか♪」


モンモランシーが尋ねるように言うと、ロビンは肯定の意味を持って一度大きくゲコッと鳴いた。
それが通じたのか、モンモランシーは嬉しそうに笑うと、先ほどから座っていた椅子から立ち上がり部屋の中を歩きだした。


「後は何か特技なんか見せれればいいんだけど...ロビン、何か出来る?」


モンモランシーがロビンを見つめて聞くが、ロビンは申し訳なさそうに顔を横に振り、ゲコッと一声鳴いた。
「そう...」と声を漏らし、再度思案にふけるモンモランシーを見て、ロビンはしゅんと頭を下げた。


(主...本当に申し訳ありません。貴方様に嘘をつくのは身を焼かれるように苦しいのです。しかしレミア嬢を助けるためには仕方のないことなのです)


ロビンの表情はいまにも泣きそうに黒い眼を潤ませている。
正直、カエルが泣くのかは分からないのだが、何故、彼がこのように葛藤しているのかというと、朝に集まった時に彼が言った言葉から始まる。


私どもが協力して、レミア嬢を優勝させましょう。


レミアが再びノエルに振り向いてもらうため、ロビンは使い魔品評会で優勝することをレミアに提案した。
実際、レミアは使い魔としては珍しいコアトルであり、大きさだって今やシルフィードだって飲み込める程のとんでもサイズである。
メイジとの親密度も行き過ぎなほどであるし、そのままでも優勝する可能性は十分なのである。
しかし、それをより堅固なものにしようとロビンが提案したのは、今集まっている使い魔がレミアよりも目立たなくなる事、ぶっちゃけて言えば手を抜くという事だ。
幸い、集まっているシルフィードやフレイム、ルーナなんかはレミアと同じ優勝候補のメンバーなのだ。この三匹が優勝戦前から外れれば、あとはレミアの独壇場であるといってもいい。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


『そんなんで上手くいくのか?他の奴が優勝したらどうすんだよ?』

『少なくとも我々が候補から抜けるだけで、よりレミア嬢が確実にはなりますよフレイム氏。君も同期であるレミア嬢が困っているのですから、協力していただきたいですね』

『きゅいー!!わかったねロビンちゃん!私は協力するね!!』

―私はマスターの意向に従いますから...まあ、前向きに検討しますわ―

『オイラのご主人はあまりやる気ないから多分大丈夫だぞ』

『皆さんお願いしますよ。私も出来る限り協力はしますから。これでどうでしょうか?レミア嬢』

『ううう...みんなありがとう...私、絶対優勝するわ。そしてノエル様をあの吸血鬼から取り戻すわ』



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


そんな会話がされたのが今日の朝、それ以降、ロビンはフレイム達に会っていないが、上手くやってくれることを切に願っていた。


(私だって...ホントは主に見せたい特技が沢山あるのですが・・・)


実はモンモランシーに言ってはいないのだがロビン、体は小さいけれども驚く程芸達者なのである。

自分の体を赤や白や緑と何十色にも変えられ、口から飛ばす水鉄砲は10メイル先のハエだって撃ち落とす。
バランス感覚は抜群で、塔のてっぺんまで昇ったと思えば糸の上でもなんなく渡れちゃう。
おまけに「精霊語能力検定」を3つ(水、沼、森の精霊と会話が出来る)も持っている等以外にも凄いのだが、ロビンは今回の品評会でも、それを封印するつもりなのであった。


そんなロビンの心情を知るはずもなく、モンモランシーは椅子に座ると、ロビンの頭を撫でながらブツブツと話し始めた。


「まあ、紹介だけでいいかしらね...別にどうしても何か見せなきゃいけないってワケじゃないし...」

(あああ...ホントに申し訳ありません主。あなたに忠誠を誓った身であるにも関わらずこのような行為に及ぶことをお許しください)

「こういう時、ジョルジュがいてくれたらいいんだけど...って違うわよロビンッ!?別にアイツがいい案出してくれるかなってことで、別にアナタがどうってことじゃないわよ!?」

(ん...?主、なにやら話の方向がおかしくなってますぞ)

「大体、ジョルジュったら夕食終わってから品評会の準備するからって、『これは別々にやるべきだよ』って、何よ、まるでずっと一緒に...いるみたいに・・・」

(主...朝食からベッドに入る直前までいれば、それは『いつも一緒』ですよ)

「そんなにいつも一緒にいないでしょ」

(最近はアナタとジョルジュ殿が別々にいる所を見る方が珍しいですぞ)

「ジョルジュたら、『お楽しみは当日でだよ!!』って、何お楽しみって・・・まさか!?ダメよ!いくら仲が良いからって私たちまだ学生なのよ!!」

(主、ジョルジュ殿は品評会での事を言ってるんですよッ!?決して主が思ってることではないですよ!?)

「や、っぱり、始めって肝心なのよね?本にもそう書いてあったし...でも、あ、そう言うのは...ちゃんとプロポーズした後に...」

(あの!?もう品評会の事は良いのですか?って最近こういうのを多いですよね主?)


ロビンの抗議など聞こえるはずもなく、いつもは聡明な主人のモンモランシーは、今はベッドでゴロゴロと転がりながら叫び声を上げていた。

ああ主よ...貴方は変わりました...そんな性格ではなかった筈なのに...


それでも私はあなたについていきます。
そう思いながら、ロビンは身もだえする主人を優しい目で見守るのだった。










「・・・・・・そう」

「きゅいきゅい、そういうことなのね!だからお姉様、今回はレミアちゃんに...」

「だったら・・・・尚更優勝を目指す」

「ええっ!?」

「あの白髪に勝ちを譲るのは私のプライドが許さない・・・・・絶対勝つ」

「ちょ、お姉様?私の話聞いてたのね?勝っちゃだめ・・・」

「優勝しなければシルフィード、当分肉も魚もなし」

「きゅいーッ!!?」


45話 使い魔サイトの日常、使い魔レミアの憂鬱

ルイズはベッドの中で夢を見ていた。
トリステイン学院から3日ほどの距離にある彼女の故郷、ラ・ヴァリエール領の屋敷の中庭で、幼い姿に戻った彼女は、母の説教から逃げ回っていた。

「ルイズ、ルイズ、ルイズ!何処へ行ったの?まだお説教は終わっていませんよ!!」

屋敷の方から母の声が聞こえてくる。
その声よりもさらに近くから、自分を探しに来た召使たちの話し声も耳に届いてきたので、ルイズはその場を離れようと、今いた植込みの中を抜けて、動き始めた。


「ルイズお嬢様は難儀だねえ」

「まったくだ、上の2人のお嬢様は魔法があんなにおできになるというのに」


中庭を探している召使たちの陰口が聞こえてきた。
悲しさと、悔しさで、ルイズの目には知らず知らずの内に涙が滲んできた。
いつの頃からか、周囲の人から陰口を囁かれるようになった。しかし、ルイズにはそのことよりも、家族からの目線が辛かった。
二人の姉が既に魔法を使えるようになった歳になっても、ルイズの魔法はいつも失敗ばかりしていた。
途端に周囲の目線が辛くなったことを幼心に感じ取ったルイズは、母に怒られながらも、人一倍魔法の練習をしてきたつもりだった。
しかし結果はいつも同じ、爆発の音と煙幕が目の前に残るだけであった。

それでも家族はルイズに優しく接していた。
父は魔法を使えないルイズも二人の姉と同様に愛を注いでくれ、上の二人の姉も、違いはあれどルイズが魔法を使えるよう見守っていてくれた。
そして今も遠くから声が聞こえてくるルイズの母も、魔法が使えないルイズを叱れど、朝から夜遅くまで熱心に彼女の魔法の指導をしてくれていたのだった。
そんな家族の気持ちに応えることが出来ない自分に、ルイズは耐えられなかった。
そうして、いつの間にか屋敷を抜け出して、一人になることが多くなっていた。

ルイズは歯噛みしながらいつもの場所に向かう。
そこは彼女の唯一安心出来る場所、『秘密の場所』と呼ぶ中庭の池である。
あまり人が寄りつかない、うらぶれた中庭。
池の周りには季節の花が咲き乱れ、小鳥が集う石のアーチとベンチがあった。
池の真ん中には小さな島があり、そこには白い石で造られた東屋が建っている。
その小さな島のほとりに小船が一艘浮いていた。船遊びを楽しむ為の小船も、今は使われていない 。
そんなわけで、この忘れられた中庭の島のほとりにある小船を気に留めるのは、今はルイズ以外に誰もいない。
ルイズは母に叱られると、決まってこの中庭の池に逃げ込んでいた。
小舟の中に予め用意してあった毛布に潜り込み、水面の揺れにゆったりと身を任せていると…
どこから現れたのか、一人のマントを羽織った立派な青年の貴族が現れた。
年は大体十代後半、夢の中のルイズは六、七歳であるから、十ばかり年上だろうと感じる。


「泣いているのかい?ルイズ」


つばの広い帽子に隠されていて顔は見えない。毛布からちょこっと顔を出すと、ルイズは羽つき帽子に顔を隠した青年に目を向けた。


「今日は君のお父上に呼ばれたのさ。あの話のことでね」


青年はルイズが顔を出したのを見ると、自分が屋敷に来た理由を話し始めた。
この頃、晩餐会を共にすることが多く、父と彼との間でなにか約束を交わしていたらしい。
帽子の下の顔がニッコリと笑うと、スッと手を差し伸べてきた。


「ミ・レィディ。手を貸してあげよう。ほら、つかまって。もうじきパーティが始まるよ」

「・・・」

「また怒られたんだね? 安心しなさい。ぼくからお父上にとりなしてあげよう」


青年の手は、ルイズの前に出されたまま止まった。大きく、優しそうな手である。
しかし、夢の中のルイズは顔は出せども、一向に毛布から出ようとしなかった。
青年を見る顔も、どこかいぶかしげである。
そんな様子を不思議に思ったのか、貴族の青年はもう一度ルイズに話しかけてきた。


「どうしたんだいルイズ?恐がらなくても大丈夫だよ。僕がルイズの事を守ってあげるから…」


優しく喋りかけてくる青年に、ルイズは意を決したように毛布から這い出してくると、夢の中で、初めて口を開いた。


「あの・・・・」

「ん?」

「どなたでしょうか?」


夢の中であるが、ルイズはその場の空気が沈んだのを感じた。


「ハッ!?」


ルイズがベッドから勢いよく飛び起きた。あたりを見渡せば、そこは見慣れた寮の自室だった 。
窓から差し込んでくる筈の朝日はなく、部屋の中はまだ薄暗かった。
しばらくぼんやりとしていたルイズであったが、不意に何か思い出したのか、バッと体にかけてあった毛布を払うと、今まで自分が寝ていた場所に手をあててなぞり始めた。
少し経った後で、ルイズはほぉ~っとため息を吐くと、ぼそりと呟いた。


「良かった・・・『漏らして』ないようね」


ルイズは安心したのか、そのままドサリとベッドに倒れた。
今朝見た夢を思い返すと、屋敷の中庭にある池が鮮明に思い返される。


(ああいう夢の時って、偶にやっちゃってる時あるのよね~こんなのバカ犬やキュルケなんかに知られたら…)


ベッドにゆったりと体を預けながら、ぼんやりと、先ほどまで見ていた夢を思いかえす。
あの夢に出てきた青年の顔と名前を思い出そうとまだ重たい頭を使って考えるが、霞がかかったようにまるで口から出てこなかった。


(誰だったけ?なんかあの頃ちょくちょく屋敷に来てたけど~なんかいっつも同じ帽子ばかり被ってきてたから…それは出てくるんだけど…顔がなんか思い出せないわ)


しかし、ルイズとしてはあまり重要に考えていなかった。
夢の中の青年が屋敷に来ていたのは10年も前の事である。
しかも自分は当時6歳なのだ。いくら人付き合いが大事な貴族だからといって、10年も会っていない人の顔と名前を覚えていられるだろうか?

否、不可能だ。

無理である。

そもそも覚えていたら自分でも若干ヒく。

そう自分に言い聞かせると、ルイズはベッドの上をゴロゴロと転がりながら隣に置かれた藁にいる筈のサイトの方に目を向けた。


「サイ・・・ト?」


ルイズは再びベッドからはね起きた。昨夜は藁の上で寝ていたサイトが、今はその場にいなかった。
良く見ると、壁に立てかけていたデルフリンガーもない。


「え…ちょ、何処にいったのよアイツ…」


辺りをキョロキョロと見回すが、薄暗い部屋の中には何処にも使い魔の姿は見えない。
早朝特有の静けさが、ルイズの心を急に不安にさせる。
心配になったルイズはサイトを探そうと、ベッドから出ようとした時、窓の外から少年の声が聞こえてきた。








朝霧が漂う学院の庭、それを払うかのようにサイトは地面を蹴った、そして手に持った剣を目の前に立つ少年に向かって振りかぶる。


「オリャァッ!!」


振り下ろされた剣は少年の頭を捉える・・・・筈であったが、少年はわずかに体を横に移動すると、サイトの剣は空しく少年の横を通過していく。
それと同時に、サイトの喉に衝撃が走った。
少年はサイトの喉仏に掌ていを当て、そのまま首に腕をかけると、同時に足を引っ掛けてサイトを地面に倒した。
背中から地面に叩きつけられた衝撃で、サイトの口から強制的に息が吐かれる。

「ガハッ!!」

「次はサイト君が受ける番だよ」


少年はサイトの襟首を掴んで無理やり立たせると、すぐに2,3メイル距離を離して構えた。
息を整える暇もなく、サイトも慌てて剣を中段に構えて少年の攻撃に備える。
パーカーは来ておらず、朝の冷たい空気が火照る体を冷やしていく。
サイトは目の前に立つ少年をジッと見ながら、すぐに対応できるようつま先に体重をかけていく。
息を整えようと大きく息を吸って吐いた...次の瞬間、
急に少年の体が大きくなり、剣を持っている両手首を掴まれたと思った後には、サイトの体は再び地面へと向かった。
両手首を固定されながら倒され、何とか起き上がろうとサイトが上体に力を入れると、鈍い風切り音と共に、サイトの顔のすぐ横に足が刺さっていた。
一瞬、心臓と息が止まったサイトに、手首を掴んでいる少年は二カッとサイトに笑いかけた。


「ほい、まだまだ勉強不足だべサイト君。もうちっと頑張らねぇと」


紅い髪の少年、ジョルジュはサイトをゆっくりと起き上がらせると、サイトの背中に着いた埃を払いながら言った。





フーケの捜索と舞踏会から10日程。
サイトはルイズの寝ている早朝から、ジョルジュに訓練を受けていた。
舞踏会の後、サイトは改めて魔法の恐ろしさを知った。

もしこの先、ジョルジュみたいなメイジが味方ならいいが、敵としてやってくれば...

そう考えた彼の頭の中に、桃色髪のご主人様が浮かんで来たのだった。
考えたらすぐ行動。
舞踏会が終わった翌日からサイトの訓練が始まったのだ。

ランニングから腕立て伏せ、腹筋などの筋トレに始まり、デルフリンガーの素振り。
そんな様子を初日に見つけ、手合わせを提案してきたのがジョルジュであった。
サイトは喜んでそれを受けた。それからというもの、ジョルジュが花壇の手入れを終えた後、二人での組手が行われるようになった。

サイトが組手の時に使うのは、ジョルジュが作ってくれた木剣、「剣」というよりは修学旅行で買えるような形をしているので「木刀」と言った方がいいかもしれない。
対してジョルジュの方は杖もなければ何も持っていない素手。しかし、サイトにはそれでも十分脅威である。
ジョルジュは体は少年だが、サイトの世界ではかつての師である与作、通称「人斬りヨサク」の相棒「血まみれゴサク」であったのだ。(こっちの世界でも「血まみれ」と呼ばれているらしいし)
そんなジョルジュから見れば、剣を持ったサイトなどトラン○スから剣を受け取ったコ○ド大王に等しい。
そうして特訓が始まってから10日目、今だにジョルジュから一本を取れないサイトであった。



「剣術じゃない?与作先生が?」


手合わせを終えた後、サイトはデルフリンガーを振りながら花壇に水をやるジョルジュに聞き返した。
話題は二人の共通の知り合いである、よっちゃんこと「森永与作」の事である。
ジョルジュは花壇に咲く花をジッと見ていた。咲き具合をチェックしている様で、隣に動いてまた花壇の花を観察するように見る。


「そうだよ。よっちゃんから剣術学んだって言うけど...元々よっちゃんって剣術どころか剣道すら習ってないだよ」

「だけど、与作先生の道場には『森永流剣術』って・・・・」

「それ...たぶん嘘だよ。だってオラと一緒にいたころは「斧」使ってたもん」

「斧ぉ!!?」


余りの事実にサイトの体に衝撃が走る。

斧ってドラクエに出てくる!?というよりもあっちの世界で、実際斧なんか持ってる人っているのだろうか?


「あの頃はオラもよっちゃんも若くてなぁ~。どっかの学校に出入りする時はオラもメリケンサックなんか持って行ったんだけど、よっちゃんなんかは家にある斧を持って...」

「いやいやジョルジュさん...若気の至りで斧持つ人はいないです」

「あの頃のよっちゃんの口癖は『切れれば何でもイイ』だったからなぁ...実家が樵の家系だからかなぁ?」

「樵だからじゃないですよッ!!普通に危ない人じゃないですか!!?」


サイトは道場で稽古をしていたあの頃を思い返す。確かにあの人が教えてくれたのは
「敵に対して思い切り振り下ろせ」や「相手の武器毎叩き切れ」やはては「相手の攻撃など無視しろ」など、およそ剣術とは思えないモノばかりであった。
おかげで度胸はある程度付いたが...危うく自分も危ない人になるところだった。
サイトは背中がぞーっと冷たくなるのを感じていると、作業を終えたのか、ジョルジュが周りに置いてある道具を片づけると、スッと立ち上がった。


「んじゃぁ、オラはこれで行くけんど...サイト君は?」

「あ、オレももう少ししたら洗濯に行くんで...」

「そっか。じゃあ、まただよ」


ジョルジュは手を上げてると、肩に道具を担いで男子寮へと歩いて行った。
その背中を見送るサイトの手元から、デルフリンガーの声が聞こえてきた。


「相棒もえっらい奴に教えてもらってたんだなぁ」

「まあ、悪い人じゃ無かったよ」


サイトは乾いた声でデルフに答えた。
そうこうしている内に大分時間も経った様で、まだ朝早いとはいえ、先ほどまで漂っていた朝霧も消え、外の空気も暖かくなっている。
サイトは部屋に戻り、ルイズに言われた洗濯物を取りに行こうと、デルフリンガーを鞘に入れた。
その時、上空を何かが通り過ぎた音が聞こえ、サイトは顔を上げた。
頭上には既に何もいなかったが、少し離れた空に、馴染みのある蒼い羽が羽ばたいていた。






サイトとジョルジュが朝早く動いているのと同じく、人でなくとも朝早くから動き回るモノも多数いた。

二人がいる庭の丁度反対側に位置する場所に、使い魔のための小屋が建てられている。
通常、使い魔は召喚主である学生の部屋で生活を共にするのであるが、ドラゴンや馬、ゴーレムのような大型の使い魔は部屋に入ることが難しいため、学院内に建てられた、この使い魔専用の小屋で寝ていた。
小屋といってもその大きさは学院で働く給仕達の仕事場と同じくらいの大きさであり、学院の学生たちの使い魔がこの場所で生活しているため、小屋の中には大型の使い魔が数多く生活している。

そんな小屋の前で、春に召喚された時よりも大きくなったノエルの使い魔、レミアは暴れていた。


『チクショーッ!!あの雌豚吸血鬼めーッ!!私のノエル様をタブらしやがってーッ!!!』


大きな体を地面に叩きつけ、まるで陸に上がった魚のようにビッタンビッタン地面の上で跳ねている。
これだけ小屋の前で暴れていれば一匹くらい使い魔が起きてきそうだが、皆睡眠の方が大事なのか、それとも慣れているのか、小屋の中の使い魔は気持ちよさそうに寝息を立てている。
ズシンズシンと地面を揺らすレミアを遠目で見ながら、サラマンダーのフレイムはレミアに火の粉を飛ばした。


『ちょっと、レミア静かにしろよ!!先輩方起こしたらどうするんだ!?』

『ウェ?その声は、フレイム!フレイムか!!遅いよこのトカゲ野郎!!』

『なんだよ?呼ばれてきたのに酷くねぇ!?』

―フレイムさん、あなたの言い方も悪いですよ―

『えーっなにこれ?なんでオイラ朝から責められてんの?』


フレイムは横からルーナに注意を受けると、口をあんぐりと開けると、くりっとした黒眼で、悲しそうにルーナを見上げた。
そのフレイムの視界に、バッサバッサと羽の音と共に、青色の巨体が飛び込んできた。
今年召喚されてきた「時」には最も体が大きかった風韻竜、シルフィードである。
シルフィードは少し離れた場所に降りると、ドスドスと二匹の元へと掛け寄ってきた。


『きゅいきゅいーッルーナちゃんにフレイムもおはようなのねーっ!』

『だからウルセーって!!なんでこう、デッカイ奴は朝から騒がしいんだよ』

『きゅい、フレイム酷いのね!!とてもお姉様の親友の使い魔とは思えないのね!!』

―フレイムさん、言って良いことと悪い事がありますよ―

『ちくしょう!!今朝は何言ってもオイラが悪者だよ』


フレイムの目から涙が出そうになった時、レミアがズリズリと体を這わせながら3匹の元へと寄ってきた。


『来たかいシルフィード...一番重要な奴が来てくれたよ』


舌を出しながら近づいてくるレミアを見ながら、フレイムはクェェと低い声で鳴いてレミアを見上げた。

『まあ、お前が昨日「明日の朝ちょっと来い!!」って呼んだんだけどな』

それに続いてシルフィードもキュイキュイと鳴くと、首を上の方へ動かしてレミアを見上げた。

『きゅいきゅい、そう言うことね!!それで相談したい事があるからって、シルフィは必ず来いって言ってたのね!!』

最後にルーナが顎に手を当てながら、目の前で止まったレミアを見上げたのだが、彼女の視界には顔が映らなかった。

―そうですね...しかし、なんというかレミアさん...ここ数日間で大分...―

『『『大きくなった(な)(のね)(ようですね)』』』


ノエルの使い魔レミア、その体は召喚の儀式の時と比べ、シルフィードが見上げる程までに巨大化していたのであった。


『あの新入りの所為だよ!!』


そう叫んだレミアの目には、「嫉妬」という感情が蠢いていた。







『キュイーッ!?私のせいなのぉ!?』

『そうさぁ!!元々はアンタがあの吸血鬼の小娘を連れてきたんだろっ!』


シルフィードは辺りを気にせずに大きな声で鳴いた。
空気がビリビリと震え、傍にいたフレイムはクェェと鳴いて顔をしかめた。
しかしそんなことは関係なく、レミアはすっかりと太くなった自分の体をとぐろ状に巻いていくと、近くにある校舎の二階程にまで顔が届いた。
フリッグの舞踏会の時はそこまで大きくなかったのだが、彼の主人であるノエルが居なくなった翌日から、見る見るうちに大きくなった。
それはノエルが戻ってきた後も、収まるどころかさらに巨大化してしまった。
レミアは舌をチロチロと動かすと、首をフルフルと振りながら、悲しそうに話し始めた。


『あの小娘がやってくるまで、私は幸せだった...そりゃ、召喚された時は不安だった。思わずご主人様を...ノエル様を締め付けて飲み込んだりもしてしまった』

『その時点でお前の主人的には不幸な気がするんだけど...』

『黙れ小僧!!』


口を挟んできたフレイムに、レミアは牙の先端付近からピュッと液体を飛ばした。
フレイムはそれを体をよじってかわしたが、液体が地面に着いた瞬間、ジュアアッと音と煙を立てる。

『危な!毒飛ばしてくるなよ!!』

フレイムの抗議は無視し、レミアはシューシューと音を立てながら話を戻した。


『でも、ノエル様は...あの人はまだ小さかった私を大事にしてくれた。自然の厳しい世界で生きてきた私にはそれがホント、心に浸みたわ』

『きゅいきゅい...ルーナちゃん、レミアちゃん何歳なのね?』


シルフィードは、レミアに聞こえないように、横にいるルーナに尋ねてみた。


―そうですね、私たちのようなモノはそういう概念が薄いのですし、それぞれ個体差があるのでどうも言えませんが...人間で言うと大体2○歳...―

『きゅいー!!?もうおばさんなのね!「ちゃん」づけなんてしちゃいけなかったのね!』


思わず声を上げてしまったシルフィにギラリとレミアの視線が突き刺さる。
シルフィもそれに気づいて、しまったとばかりに口を開けて、だらだらと汗を流していた。


『シルフィード、アンタなんか言ったかい?』

『え?シルフィは何にも言ってないよ?フレイムが言ったんじゃないかしら?ルールルー♪』

『おいシルフィード!なんでオイラに振るんだよ!?確実にお前喋ってたろい!』

『フレイムううぅ!!』シャーッ!!

『鵜呑みかこの蛇は!』クエェーッ!

レミアとフレイムは互いに威嚇するように口を開けて鳴いた後、再びレミアはノエルとの思い出を語り始めた。


『幸せな日々が続いたわ...多くを語らないノエル様だけど、あの人の傍にいるだけで私の心は安らいだ...あの人が私の中にいるだけで、幸せな気持ちでいっぱいだった』

(蛇の中に入り込む時点でまともな人間じゃねぇだろ...)


『それなのにッ...!あの人間達の舞踏会が終わった翌日、ノエル様は私の傍から姿を消してしまった!!』


レミアは高く上げていた頭をシルフィードの方に動かすと、ほんの数サントの距離で、シルフィードの前で止めた。
無言でなにも言ってこないが、「お前が連れて行ったからな!」と目で訴えてくるその雰囲気に、シルフィードは竜なのに固まってしまった。
きゅいいっと鳴くシルフィードを見て、レミアは舌でチロチロとシルフィードの鼻先を舐め、頭を上に戻すと、今度は目からポロポロと涙を流し始めた。


『辛かった...ッ!私の愛するノエル様が急にいなくなり、私は、私はノエル様がいないか辺りを探し始めた。何日も何日も、私は学院の外に出てあの人を探した』

―それで、遭遇したモノを飲み込んで、そこまで大きくなったと―

『私の道を邪魔するモノは容赦しなかったのよ!草原で襲ってくる狼を飲み込んで、川で水を飲んでいた鹿も飲み込んで、森で遭遇したオーク鬼を飲み込んだ。
だけどいくらお腹を満たそうとしても、私の心は満たされなかった』

(そんなに喰ってたらそりゃ太るわな)

『一週間経って、私は学院に戻ってきた。そしたらノエル様が戻って来ているじゃない!嬉しかった...御無事でホント嬉しかった...あんの吸血鬼がいなければなッ!!』


レミアは先ほどまでやっていた様に、頭を地面にビッタンビッタンと叩きつけながらシャーッと鳴き声を上げた。
これがレミアのものすごく怒っている様子らしく、彼女の頭が地面を叩く度、辺りの木々を揺らして、その牙から毒液を垂らした。
周りにいた3匹は、慌ててその場を離れる。


『あんの泥棒吸血鬼がぁーッッ!!ノエル様の膝に乗りながら「私エルザ!よろしくね」って、ヨロシクじゃねぇんだよ!!ノエル様の体はなぁ、頭の先からつま先まで神聖なものなんだよ!お前みたいな吸血鬼がノエル様の体に触れること自体駄目なんだよ!!それをつけ上がって「一緒に寝よお兄ちゃん?」ざっけんな!!ノエル様のベッドはなぁ、召喚された時からレミアの中って歴史の本に書かれてるんだぁーッ!!』

『おおお落ち着けってレミア!辺りが毒液で溶けて...やっば、尻尾にかかっちまった!』

『きゅいきゅいッ!落ち着くのねレミアちゃ...姉様?辺りが煙で凄いことになってるのね!』

『あ、ルーナの奴地面に潜り込みやがった!!』

しばらくの間、レミアは毒液を飛ばしながら地面に頭を叩いていた。
小屋の使い魔達もその音で起きていたのだが、どの使い魔もわざわざ厄介なコアトルなど相手にしたくもなく、はやく静まるのを願って寝床で目を閉じたのであった。







レミアの暴走から数分後、辺りは毒液の所為で煙がアチコチ上り、木の枝や草の端が溶け、校舎の壁は少しへこんでいる箇所もある。
レミアはぐったりと地面に体を伸ばし、前にいる3匹の使い魔を尻目にポロポロと涙を流していた。


『ううう...あの小娘が来てから、私の体はストレスの所為かさらに大きくなったわ...もうノエル様の部屋に入るのも無理。私はあの小娘がノエル様にくっついているのを窓の外からしか見れないの...うううううっ!!!』


ルーナとシルフィード、そしてフレイムは互いに顔を見合せた。
性格が偏っている蛇ではあるが、主人を慕う気持ちは同期の中では1,2を争うだろう。(シルフィードは自分だと思っているが、それを今言うほど馬鹿じゃない)


『きゅいきゅいぃ、ルーナちゃん、なんとかならないかしら?なんだかレミア姉様が不憫なのね』

シルフィードはルーナに聞くが、ルーナは困った表情を浮かべた。

―そうは言ってもですね...別段、ノエル様がレミアさんをないがしろにしているわけでもありませんし、それにノエル様も事情があってエルザさんを連れて来たようですが、使い魔というわけでもありませんから、考えすぎのような気がするのですが・・・―


ルーナの声を聞いていたのか、レミアはぐったりとしていた頭をブンブンと横に振った。


『「使い魔」としてじゃなくて「パートナー」としてノエル様の一番でいたいんだ!ふえええぇぇ・・・』

レミアの言葉に、ルーナもシルフィードも見せたことのないような苦い表情を浮かべる。
その足元にいるフレイムは、小さく火を吐くと、全く空気の読めていないセリフも吐いた。


『おいおいオイラ達は使い魔だぜ?そんなの無理に決まって...』

『シャァッ!!』


フレイムが最後まで言い切る前に、レミアは口を開いてフレイムの体を半分、口の中に入れてしまった。
ジタバタと口の中で暴れるフレイムであるが、ガッチリと閉じたレミアの口からは逃げられない。「クエエエッ~」という鳴き声がどこからか漏れてくる。

『やれやれフレイム氏、やはり貴方はレディへの心配りがなっていませんよ』


ルーナ達の足下から、「ゲコゲコ」という鳴き声と共に声が聞こえてきた。
ルーナがジッと地面を見ていると、草の間と間の地面に、黄色い肌をしたカエルがちょこんと座っていた。
それはトリステイン学院の使い魔の中で最も礼儀正しいカエル、モンモランシーの使い魔のロビンであった。


―ロビンさん?いつの間にそこにいらしたのですか?―

『いやはやルーナ嬢、ここには先程着いたばかりでして、なにやらお困りの様子でしたので来させていただきました。すみませんがルーナ嬢、お手を貸してはくれませんか?』


ルーナはクスリとほほ笑み、-ええ、どうぞ-と、地面近くに手を差し出した。
それを見たロビンは体を少し縮ませると、勢いよく飛びあがり、ルーナの薄緑色の指の先に、ちょこんと着陸した。
突然の乱入者に、レミアは既にぐったりとしていたフレイムを吐き出すと、ルーナの指先をジロリと睨んだ。


『なんだい...ロビン、アンタ、そこのシルフィードに潰されたって聞いたけど、生きてたのかい?』

レミアの言葉に、シルフィードはバツが悪そうに喉を鳴らした。
それをかばうかのように、ルーナの指で喉を膨らましながらロビンは一度大きく鳴くと、いかにも誇らしげに語り始めた。


『いやいや...私も見くびられたものですな。私をそんじょそこらのカエルと一緒にしないで頂きたいですなレミア嬢、私の家系は代々、貴族や戦士に仕えてきた由緒正しき一族なのですよ。特に私の曽祖父に当たりますかね、23代目当主の「ピョォンキッチ」は、当時の主人の衣服に同化し、悪の根源であった魔人、「ゴリラーイモ」を倒したと伝えられているのです。そんな素晴らしい血統を受け継ぐ私が、竜だからといってレディに潰されてしまうわけがありません。だから...』

『だから長えんだよ!別にお前の先祖の話は聞いてねぇって!!』


レミアに吐かれた後、地面に突っ伏したままのフレイムであったが、ロビンの長い話に思わず体を起こしてツッコンだ。
大きい口の中に閉じ込められていた所為か、顔にはねっとりとした液体が付いていた。
気持ち良く語っていたのを止められ、不満そうに喉を鳴らすロビンであったが、ルーナの手の平をちょこちょこと動き回ると、レミアの顔が見えるところまで移動した。


『大丈夫ですよレミア嬢、あなたのご主人であるノエル殿の気をあなたに向けさせる、とっておきの方法があります』

聞いた瞬間、レミアはカッと目を開き、地面に伏せてた顔を素早くロビンの所まで上げた。


『ほ、ほほホントかい!?どうしたらノエル様をあの吸血鬼娘から取り返せるんだい!!』


舌を出しながら興奮気味にまくしたててくるが、ロビンは「落ち着いてレミア嬢」と言葉を挟んだ。


『簡単なことですよレミア嬢、貴方がこの学院の中で一番素晴らしい使い魔だと、名実共に示せば良いのです。「メイジの力量は使い魔で決まる」、まさにそれを示す格好のイベントがあるではないですか!』

『おい、それって...まさか』


フレイムの言葉に、ロビンは正解と言わんばかりに口に端を上げた。


『そう、使い魔品評会です!!』



久々に小説更新&イラスト募集!!!


 久々の更新ですが、二次小説の方更新しました!!
 田舎の貴族は土を嗅ぐ
 



 それとですが、

 黒いウサギ、
イラストを描いて下さる方を募集してます!!

現在書いてますゼロ魔の二次小説のイラスト、若しくはオリジナル小説のイラストを描いて下さる方を探しています。
 もし興味のある方はぜひ、御連絡下さい。

 どうぞ、ヨロシクです♪

はじめに!

黒いウサギ

Author:黒いウサギ
黒いウサギですこんにちは♪

職業:
一応大学院で頑張ってます

好きな物:
ノンアルコール飲料が
美味しく感じ始める

パスタ系全般
甘い物は別腹タイプ

好きな映画BEST5
①グラディエーター
②フォレスト・ガンプ
③アメリ
④ミックマック
⑤パラノーマル・アクティビティ

好きな本BEST5
①ジョジョの奇妙な冒険
②ゼロの使い魔
③容疑者Xの献身
④ひつじのうた
⑤銀魂

2012年、24になるウサギですが、
いい年にしたいですホント。
いろいろ込みあう大学院生活ですが、
楽しみつつ頑張っていきます!

PS:
質問、お悩み、ご相談の方は
ドンドンメッセにご連絡下さいな

最新記事

月別アーカイブ

兎の小説

カテゴリ

ポチっと一押し!!

押していただけたら嬉しいです
人気ブログランキングへ

ブロとも一覧


ひっくり返ってそらを観る。

お小遣いサイトで稼ぐぜぇ!

NOVAs3兄弟の雑学・ゲーム・現実記 

espliaのちょっとだけ時代遅れ。

すきなものいっぱい!趣味ブログ。

大阪が好き!日本が好き!大阪の事はお任せ!

午睡の夢商店 -ライトノベルはじめました-

高校生がげん玉&モッピーで親にバレずに楽々お小遣い稼ぎ!!

エンロハルバル。

世界で一番くまが好きなのかもしれません。

痴女伝説

~ゲーム改造屋~

ふんだりけったり

ノノノ

からくり童子 風のジード

わくわく株式投資

きつねにあずきめし

クソBOOK・OFFを糾弾するブログ!!

水水行進曲!!

OMAME na BLOG

蒼いウサギの観察日記

ぶっちぃ。のにっき

南国果実栽培施設

りんごごりららっぱ◎

気ままな雑記帳

ずるいってば。

にこらん?

ゆられゆらりゆるり

恋愛系情報商材の暴露!!

キャット空中三回転

琳!LIFE

お小遣いUP♪

小説好きの便り(仮)

― Eat an Imaginary Apple ―

小さな小さな音楽ブログ

あーう゛ぁーう゛ぁーーう゛ぁう゛ぁーう゛ぁう゛ぁ

徒然なるままに日暮らせない Orz

ちびスケとアニキの話し

虎も好き、競馬も好き。

ナルコレやろうぜ!

お勧め洋楽 パンク・ロック

テラもげすによる創造政策

サッカーJAPAN本舗

キツネさん理論

リンク

ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。