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ミケとの5:2の主従関係(後編)




「んにゃっと疲れたにゃー!!」

 ミケはベッドに倒れ込むと、大の字に手足を広げて大きく伸びをした。一緒に歩いた獣もさすがに疲れたのか、横たわるミケの隣に腰をおろした。
あれからミケと獣は手を繋いだまま歩き続け、気がつけばかなり遠くまで歩いていた。二人とも帰ろうと決めた時には、空は夜の闇にすっかり包まれており、あいにく空には
月は出ておらず、光る木の道を外れた場所は真っ暗な世界が広がっていた。‘偶然’道に置かれていたランプで道を辿り、二人は元の部屋へと戻って来たのだった。

「ジュウ~足をマッサージするのじゃあ~」

「はいはい」

 ベッドの上をゴロゴロと転がって呻くように言うミケを見て、獣はほんのりとほほ笑む。

(あ~やっぱり可愛いな~)

 顔が自然と綻ぶ。先程の散歩で相当疲れた筈なのだが、不思議と心地よい感覚だった。
 獣はミケが向けてきた足の先を持つと、小さな足の指をぷにぷにと押し始める。押す力を段々と強めていき、足の裏全体を指で押していく。

「にゅふ」

 ベッドに寝転んでいるミケは気持ちよさそうに目を細めている。足の裏をある程度押した後、足首、ふくらはぎへと獣は手を伸ばしていく。白い肌に力を入れる度、ミケの口からは心地の良いため息が漏れた。

「う~イイ感じにゃあ~」

「ねえミケ?」

 ミケの足をマッサージしながら獣が口を開いた。

「にゃんじゃな?」

「なんで僕をこの世界に連れてきたの?」

「んにゃ?それは最初にジュウに言った通りじゃ。ジュウに最近の飼い主としてなんたるかを教え……」

「うそ」

「え、ジュウ……」

 ミケが呟くより先に、獣は動いた。横たえた体の横でだらんとしていたミケの手を掴んだかと思うと、グイッと自分の方へと引っ張り、ミケの体を無理やり起こさせた。二人はお互いの顔を見合わせた形で、ベットに座る様な姿勢になった。突然の事に驚きを隠せないミケであったが、獣は掴んでいるミケの手首をさらに引き寄せた。ミケの体が抵抗なく獣に近づく。部屋の外から扉が叩かれる音が鳴った。

「ジュ、ジュウ、なんなのじゃいきにゃり」

「ミケ、この際だからホントの事を言って欲しいな」

 ミケの顔を真っすぐに見てくる獣にミケは顔を赤くしつつも言葉を返した。

「ほ、ホントの事ってなんにゃのにゃ」

「ミケが僕を連れてきた理由を最初に離してくれた時から考えてたけど、ミケが言う様に、僕がミケの飼い主として駄目だったことがあったのなら、昔の方がもっと僕は駄目だった気がするんだ」

「そ、それは……」

「ミケのご飯を忘れたり、トイレの後始末をやらなかったり、爪切りの時に切りすぎちゃうのもあったし……」

「あ、あれは痛かったのじゃ」

 ミケが頬を膨らませて拗ねるように言うと、その反応に獣が軽くほほ笑む。が、またすぐにミケの目を見ていった。

「それでね、僕は思ったんだ。ミケがこの世界に僕を連れてきたってことは、僕は気付かないうちにミケに酷い事をしてたんじゃないかって」

 獣の言葉にミケの眼は丸く開かれた。獣に握られていたミケの手にキュッと力が入った。

「そ、それは違うにゃ!!ジュウは妾に酷いことなどしておらん!!」

「でも!」

「シャーラップ!!思い込みも大概にするのじゃ!」

 ミケは大声で叫ぶと、ミケは腕を後ろに勢いよく引いた。ミケの手を掴んでいた獣は、今度はミケの方に近づいく。二人の顔が、さらに接近した。外から扉を叩く音が、さらに大きくなった。

「さ、最初に言った通りにゃ!ジュウはこの頃、飼い主としてなっておらん!!」

 ミケはそう言うと渋い顔をしながら唇を噛んだ。言おうかどうか、悩んでいるように見える。やがて、ミケは意を決したのか獣に鋭い目を向けた。

「き、昨日だってそうにゃ!妾の耳掃除をしようとして、お前はどこか行ってしまったじゃにゃいか!!その前だって試験かなにやらで構ってくれにゃんだし……ジュウは気づいておらんのかも知れんがにゃ、わ、妾に構う時間が段々少なくなっておるのじゃ!!」

 ミケは顔を真っ赤にして言った。ミケの言葉に獣は素直に驚いていた。いつもミケの事を撫でたり遊んだりと、スキンシップは取っていると獣は思っていた。だがミケの方からすると、歳が上がるにつれ、獣はミケと遊ばなくなっていたらしい。
 そういえばと、獣は思い当たる節が出てきた。
 昔はいつも学校から帰ると、ミケと遊んでいた。だけど中学、高校と上がるに連れて、試験勉強や学校生活や友達との付き合いで、知らず知らずにミケと一緒にいる時間が少なくなっていた。獣からすれば自分では気づかないほどの変化だったかも知れないが、ミケはそれを感じ取っていたのだ。
 納得した表情を浮かべる獣の前で、ミケは顔を赤くしたまま、ゴニョゴニョと口を動かす。

「にゃ、にゃからな、ジュウが妾の事を構ってくれないんであれば、逆にジュウの飼い主になれば、妾の事を構ってくれると思って……」

 かろうじて聞こえる程の声でミケは言いながら、ミケはふるふると体を震わせてジュウを見つめた。

「……め、迷惑だったかにゃ?」
 
 恐る恐る聞いてきたミケの表情は、まるで悪さをして謝る子供のように獣は思えた。ミケの気持ちを聞いた獣は、慌ててミケの手から自分の手を離すと、

「そ、そんなことないよ!さ、最初は急にこっちの世界に連れてこられてびっくりはしたけど……」

「したけど?」

「こ、こういうのも偶にはいいかなって……」

 獣は頬を指で掻きながら、照れるようにミケに言った。首輪を巻かれるのはどうかとは思うのだが、こうして、ミケの本心を聞けたことが、獣には嬉しかった。
 二人共しばらくはベッドと話すかのように顔を下に向けてしまった。互いに恥ずかしさや照れくささが混ざり合って、とても相手の顔を見ることができなかった。
 が、獣が再起動するよりも先に、ミケの体がプルプルと震え、手を大きく振り上げた。

「んにゃー!!乙女にこんなこと言わすにゃよ!!」

「ごはっ!」

 大声で叫びながらミケの手がジュウの顔に振り下ろされた。まるで今までしてきたことの恥ずかしさを紛らわすかの如く。突然の攻撃をモロに喰らい、獣は声を出してベットへと倒れ込んだ。

(こ、これってペット虐待じゃないかな・・・・・・?)

 じんじんとしびれる側頭部を手で押さえつつ、獣は起き上がろうと上体に力を入れた。が、突然、視界が揺れた。頭が急激に重くなり、体を起こそうと頭では思っても、体どころか頭の中まで獣の命令を拒否するかのように動かなくなった。

(え…なに……)

「んにゃ、ジュウ?」

 ミケの声がぼやけた感じに聞こえてくる。ぼやっとなった思考の中で、獣は庭に出た時にミケが言った事を思い出した。

―ジュウが寝入ったあとすぐに連れてきたから、1時間も眠ってにゃいんじゃないかにゃ?

(そうだ……そういえば僕、眠らずに動いていたんだ……)

 今まで体への衝撃やショックや運動で誤魔化されていたが、決して何処へと消え去っていたワケではなく、獣の体に蓄積していた。それが今一気に出たのだ。
 ふわっと柔らかいベッドの感触に体が包まれると、獣の体を瞬く間に気だるさと眠気が纏わりついた。瞼が自然と落ちてくる。必死でそれを上げるのだが、獣の瞼は本人の意思を受け入れずに閉じようとしていた。
 ミケも獣の様子に気づき、傍まで近寄るとユサユサと獣の体を揺すり始めた。だが今の獣にはその揺れさえも、眠気を誘うゆりかごの様に感じた。

「ジュ、ジュウ!寝るにゃ!寝たら死ぬぞ!!」

(え、死ぬの!?)

 ミケのセリフに言い返したかったが、もう声を出すこともできなかった。獣の視界はみるみるとまどろみに包まれていき、

(み……け……)

 やがて闇に落ちた。



※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



 獣が目を覚ました時、薄暗い部屋の空気が顔を包んだ。
 体に感じるのはいつも自分が眠っているベッドの感触。獣は仰向けになったまま顔を横に動かした。壁には、いつも見慣れていた猫のポスターが貼ってある。天井には豪華なシャンデリアはなく、紐のぶら下がった蛍光灯の照明が付いているだけであった。
 
(……夢?)

 獣は目を開いたまましばらく動かずに、先ほどまで自分が体験した事を頭の中で思い出し始めた。が、寝起きの所為か、頭が酷く重たく、まともに思考が出来ない。

(夢……なのかな~?)

 ふと、獣は胸元に圧迫感があることに気づいた。妙にダルさが残る手で、自分に掛けられた布団をペロッとめくってみる。すると獣の胸のあたりに、見覚えのある塊が乗っかっているのが見えた。ペタンと耳を倒し、パジャマに爪を引っ掛けたまま、ミケが胸の上で眠っていた。臍のあたりにミケの尻尾の感触もあった。暗闇の中、ベッドの中にいたミケは、‘猫’であった。

「ミケ……お前いつの間に潜りこんだの?」

 赤ちゃんに尋ねるかのように優しい口調でいい、獣は眠っているミケの頭を優しく撫でた。滑らかな毛の感触が手に伝わり、撫でられたミケの口から微かに「うにゃ」と鳴き声が聞こえた。
 頭がぼやけ、自分がどれくらい眠ったのか予想もつけられない。時間の感覚が麻痺してるようだ。獣はいつも枕下に置いてあるデジタル目覚まし時計を見ようと首を伸ばし、ミケを撫でた手を時計へと持って行った。2,3度ガチャガチャと時計のボディを叩いたが、スイッチの部分に手が掛ると時計の画面が光り、数字を浮かび上がらせた。

―201○ / MAY / ○○ / SAT
21 : 03

「……あれ?」

 獣は自分が見た数字に違和感を感じ、目を擦ってもう一度時計の表示を確認した。仰向けで見ているため数字は上下逆に見えているが、時間は「21:03」と、24時間単位の表示でしっかり表されている。そして曜日の部分であるが、

「……土曜?」

 記憶が正しければ、自分は確か、『金曜日』の11時に、ベッドに入った筈だ。なのに目を開けてみれば土曜の午後9時となっている。獣はミケの重さの他に、胸に重い物が圧し掛かってくるような感覚が覚えた。どうやら自分は一日中ずっと眠ってしまっていたらしい。

(うわ~一日中眠ってるって)

 ぼやけている頭がさらにクラクラとなる。遊び盛りの高校生の休日が、まさか一日中寝て終わるとは……
 だが獣の中には、不思議と奇妙な満足感が残っていた。夢の中で見ていた、人間になったミケと過ごした時間。思い出すと目を覆いたくなる。記憶は微妙に曖昧なのだが、ものすごい恥ずかしい事をしていた気がする。

(というかミケをあんな風に想像するなんて……)

夢の中で触れたミケの耳や手や足の感触がまだ体に残っているようで、獣は恥ずかしさの余り悶えそうになる。だが胸の上にミケが乗っていることに気付き、落ち着くために大きく深呼吸をした。
 
 一回……二回……三回……四……よし、大丈夫。

獣は「とにかく起きよう」と次の行動を決め、ムクリと体を起こした。

「にゃ~」

「イテテ……ミケ、痛いよう。離して」

 首元に走った鈍い痛みに獣は顔をしかめた。胸に乗っていたミケの前足が丁度首元にかかるように置かれ、彼女の小さく鋭い爪が首に食い込んでいるのだ。両手すべての爪が獣の首から鎖骨辺りに引っ掛かっていたため、ミケは崖を登るクライマーのような格好になってしまった。獣はミケのお腹付近を掴んで離そうと動かすが、どういうワケか全く離れようとはしなかった。目を下にしてミケの顔を覗き込むと、うっすらと目を開けているのが見えた。慌てて眼を閉じたが、起きているらしい。
 ミケを離す事を諦めた獣は、ミケの尻尾の方へと手を回すと、ミケを抱っこしながら扉を開けて部屋を出た。廊下を出ると部屋と同じ薄暗い闇が続いていて、家の中はシンと静まり返っていた。

「お母さん?」

 獣は声を上げながら階段を降り、一階のリビングへと入った。ここも獣の部屋と同じく、薄暗く静まり返っていた。リビングの明かりを点けると、テーブルの上に一枚の紙切れが置かれてあった。獣はそれを手に取ってみる。紙には黒のボールペンで「お父さんと飲みに行ってくる。 戸締りよろ」と母の字で書かれてある。文面を見た獣の口から、自然とため息が漏れてきた。我が家の父と母はいい年齢だというのに仲が良い。特に休日になれば、飲みにいくといって午前帰りや昼帰りがしょっちゅうだ。恐らく今日は高確率で帰ってこない。

「お父さんと飲みにいったんだ……というか少しは子供の様子くらい見てよ」

 よく見ると、紙きれの置いてあった隣には千円札が数枚、無表情な顔でコチラを見ていた。母達は飲みに行く時は決まって獣に自炊を要求していく。この金額は「自分のご飯は自分で作れ」という意味を持っている。こんな母達の行動にはすっかり慣れた獣であったが、どういうワケか今日は酷く気が重かった。

「全く、行く前に起こし来てくれるとかさ、一声掛けてくれても良かったのに……」

「うにゃあ」

 ふと、胸に抱いていたミケが小さく鳴いた。獣はその泣き声に気づくと、顔を下に向けて愛猫の顔をジッと見た。
 うるんだ眼で見上げてくる小さな顔は、なぜか獣の心の奥を締め付けるように思えた。そういえば昨日は、結局夕ごはんあげたキリだったかも。

(そっか……ミケも寂しかったのかな?)

「なんか、二人きりだね。ミケ」

「にゃあん♪」

 獣がミケの背中を撫でてあげると、ミケは嬉しそうな鳴き声を上げた。心なしか首に回された前足が締まった気がする。

「さて……どうしよう?」

 獣がそう呟いた時、腹からゴロゴロと音が響いてくるのが分かった。別に気持ち悪いわけでもトイレに行きたいわけでもなく、体が食べ物を要求する音だ。

「とりあえずご飯にしよっか?」

「にゃ!」

 ミケの嬉しそうな反応に満足した獣は、早速、材料の確認をしに冷蔵庫へと足を向けた。

 ミケの首に巻いてある首輪の鈴が、チリンと小さく音を奏でた。



※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



「起きんか!ジュウッ!!!」

「あれぇ?」

 獣は目を覚まして驚いた。
 夢だと思っていた人の姿をしたミケが目の前にいるではないか。チョコレート色のドレスに所々に宝石の装飾、点々とパーマの掛った茶色の髪に可愛いらしい顔……は目を吊り上がらせ、明らかに怒りの表情を表している。
 当の自分といえば、前の時と同じパジャマ姿にあの豪華なベッドに包まっていた。
その上からミケに馬乗りにされているが。

「え、これ、え、あれって夢じゃなかったの?」

「夢なわけないじゃろう。ジュウ。どれ、確認してにゃろうか?」

 そう言うと苛立った様子でミケは獣の頬をむんずと掴み、グニグニと千切るかのように抓ってきた。その痛みが獣を現実に引き戻す。しかし目の前の景色はそのままだった。

「どうじゃ?これでもまだ夢ですにゃんていうんじゃにゃかろうな~?」

ギリギリと力を加えてくるミケの指が、今は獣を食い千切ろうとしていた。

「ひ、ひがいまふミヘさ、まぁ」

 そう言うとミケは止めとばかりに、獣の頬を力を入れたままバチンと顔から離した。余りの痛さに獣の右目から涙が出てきた。
 思えば前の時、ミケのボディガードだという二人の大男に放り投げられていたのを思い出した。あの痛みを味わってどうして夢だと思えてたのか今更疑問が沸く。

「ジュウ、妾は怒ってるにゃ!」

 ミケは獣の肩に手を当て、自分の体重を掛けていく。

「昨日、妾の気持ちをあんなに伝えたというのに、お前は、お前は~」

「昨日?」

 自分の上でふるふると怒りに震えるミケに怖がりつつ、獣は昨夜の事を必死で思い出した。昨日は夜中にミケと一緒に起き、そこで両親が飲みに行っていないことを知った。その後、お腹が減っていたのでご飯を作り、ミケと二人で食事をした。

「ミケ、もしかして昨日の食事が不満だったの!?」

「そう、いつも妾は態度で示しておろうが!!鶏肉にゃらば胸肉よりもモモ肉がいいと!!もし胸肉を使うのにゃらばもう少し味付けをじゃな……違うにゃ!同じ様な事を言わせるんじゃないにゃ!」

 大声を出したミケは獣にさらに体重を掛けてきた。

「ジュウ、その後じゃ!!食事が済んだ後、お前はどうしたのんじゃ!?」

「え、その後って……」

 ミケの迫力に戸惑いつつ、獣は昨晩の事を再度、思い出す。

「ご飯食べ終わった後は、片付けをして、」

「して?」

「それで、お風呂に入り、」

「お風呂に入ったにゃ。で?」

「新しいパジャマに着替えて部屋でゲームを……」

「にょれで?」

「……そのまま寝ちゃった?」

「フン!!」

「ごめんないさいッ!鎖骨グリグリしないで!!折れる!折れるって!!」

 自分の両肩に壊れそうな重圧と痛みが走り、獣は思わず泣き声に似た悲鳴を上げた。無表情で見てくるミケがさらに恐怖を駆り立てた。自分の腕が千切られるかと思うくらいの痛みを両肩に残し、獣が垂れてきた目でミケを見上げる。

「ホント、ごめんなさい……」

「傷ついたにゃ。妾はホントに傷ついたにゃ。せっかく勇気を振り絞ったというにょに、昨日今日でこんにゃ仕打ちが待っているとはのぉ」

「ぼ、僕はお母さんたちがいないから、朝までゲームでもしようかと」

「あ゛あ゛ん?」

「ご、ごめんなさい」

 ベッドに寝ながら謝る獣の姿はいまいち説得力に乏しいが、ミケの凄みに押されて尚も半泣き状態だ。そんな獣を見ながらミケは、「フフフフ……」と不気味な笑いを出すと、

「やはりジュウは飼い主としての自覚が足りんようじゃ。どうやら一日だけではジュウの態度を直せんようにゃのぉ~コレ!例のモノを!!」

 ミケが部屋の扉に向かって叫ぶと、もはやお決まりとでもなった二人の大男、ペディ&チャムがのしのしと入って来た。その手にはあの時と同じ、赤い首輪が握られてある。
 
「これからは定期的にこちらの世界に連れてきて、妾が飼い主になってやるにゃ!」

「ええ!」

「そうじゃの、ジュウの世界でいう休みの日なら問題ないじゃろ。優しいご主人さまに感謝するにゃよ、ジュウ」

 ミケはスッと差し出された首輪を受け取り、驚く獣の首にゆっくりと手を這わせていった。繋いだ時のミケの手の感触が首に伝わり、獣の顔が熱くなってきた。

「?ニュフフ、そんな顔して嬉しいにょか、ジュウ?」

 そんな獣の様子に意地悪そうに笑うミケだったが、その顔は凄く、嬉しそうに映った。
 獣の首に、懐かしい圧迫感が再び戻ってきた。真ん中についてある鈴が小さく、揺れて音を立てた。

「ニュフフ、これでよしっと」

「うう……また巻かれた……」

「フフフ、覚悟するにゃ、ジュウ。では早速じゃな」

 ミケは獣に首輪をつけ終えると、伸しかかっていた体を離し、獣の腕を両手でつかんだ。そしてえいっと引っ張って獣の体を勢いよく起こしたのだった。

「『爪の手入れ』をしろじゃ!!」






 頬を僅かに赤く染めたミケが命令するのと同時、獣の首についてある鈴と、ミケの手首についてある鈴が同時に鳴った。


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ミケとの5:2の主従関係(中編)



「ふん……あっ……いた!こらジュウ!もうちょっと優しくするのじゃ!」

「あ、痛かった?ゴメン、ミケ」

 獣は慌てて耳から耳かき棒を取り出した。金属で加工された細いカギ棒は、上部に小さな宝石がキラキラと輝いている。お金持ちはこんなトコロも違うんだなと、獣はしみじみ思った。
 ミケを膝に乗せながら耳掃除。いつもやっていることであるが、今回は勝手が違う。
 自分の部屋にあるのよりも数倍は寝心地の良さそうなベッドに腰掛け、膝の上にはミケの頭はあれど、他は獣の太ともから余裕にはみ出てベッドに横たわっている。
 ミケの耳掃除は何度もしている獣であったが、‘ヒト’にするのは初めてなため、先ほどからミケに2度、3度と文句を言われていた。

「まったく……これで何回目じゃし?ご主人様の耳をこう無下に扱うなど許されぬこ……こほっ!こほっ!!」

「まだ慣れなくて……ゴメンゴメン。もう大丈夫だよ」

 獣は謝りつつ、太ももの上でむせるミケの頭を撫でた。ミケはほぉとため息を吐き「分かればにょろしい」と獣に呟くと、獣の穿いているパジャマのズボンをギュッと握りしめた。どうやら続けろという合図であるらしい。
 獣はミケのこめかみ近くに手を持っていき、動いた時にかかった髪をそっと後ろに逃した。小さく跳ねた髪の奥に、いつものミケとは違く、されど獣と似たカタチの耳が姿を現した。
 獣はミケの耳たぶを掴むと、耳の奥が見えるよう軽く引っ張った。いつも触る固い感触ではなく、ふにふにとした柔らかな触り心地に思わず耳掃除を忘れてしまう。
 
(柔らかいな~)

「にゃ、は、なに、なにをそんなに触るかにゃ~」
 
 獣とは反対側に向いているミケから抗議の声が上がる。上ずった声に震え、再び耳に髪が掛ってしまった。獣はまた髪を避ける。「にゃ」と小さく声が上がった。
 獣はそっと耳かきの棒をミケの耳に差し込んでいった。少し浅い場所で小刻みに動かすと、ミケの口から甘い鳴き声が漏れだした。

「ふあぁぁ……そう、そうじゃあぁ、いい調子じゃにゃいかぁ~」

(好きなポイントは人になっても変わらないんだなあ~)

 力の入れ具合は違うが、いつもと同じ具合に手を動かしながら獣は思った。形はちがえど、やはりミケはミケなんだなぁ、と。家で耳掃除をする時も、最初は浅いところを優しく掻いてやるのがミケは好きなのだ。そしてその後は、

(ちょっと奥の方をくるくると……)

「にゃふんっ!?」

 一瞬、パジャマの端を掴む力が強くなった。耳かきの棒を奥の方へと入れ、全体を均等に掃除するようにくるくると回しながら動かしていく。獣はチラッとベッドの方を見た。まるで頭を中心に縮こまろうかというように、膝を折り曲げてギュッと体を固くしている。しかし彼女には不満はないようで、先ほどから文句は言われていない。耳かき棒の先に、コリコリとした感触が伝わる。そこで動かすと、その度にそっぽを向いてるミケの口から、荒い息遣いと共に声が出てきた。

「あんっ……はっ、にゅ、にゃあぁ」

(なんか恥ずかしい……)

 本人は堪えようとしているのだろうか、声を出さないようにと我慢している感じが余計可愛らしい。気づけばミケの耳は端から端まで真っ赤になっている。
獣は耳かき棒をスッと抜いた。ミケが名残惜しそうに「んなぁ」と喉を鳴らしたが実はまだ終わりではない。獣は先端部分を奇麗にすると、今度は目に見える部分を掻きはじめる。特に手入れ出来ない間の部分を丁寧に掃除していく。
先程までの緊張はない様で、力が入っていたミケの体も今は力が抜け、手足をもじもじ動かしている。

「にゅふう~極楽にゃもしにゃもし」

 顔は良く見えてないけど、上から見下ろすミケの眼は気持ちよさそうに目を細めている。僅かに見えた少女の表情に、思わず獣の顔も綻ぶ。‘猫’である時も顔をベタっと下げ、幸せそうに目を細めている時の顔に、どれだけ癒されてきたか分からない。見ているこっちまでが幸せになる。今もお互いが幸せな気分であることは間違いなかった。只今は胸に微かな高鳴りを混じらせているが。
 一通り掃除を終えると、獣は耳かき棒を取り出し、「ふ~」っと息を吹きかけた。一瞬ビクッとミケの体が動いた。

「な、中々気持良かったぞ、ジュウ」

「うん、ありがとうミケ」

 獣はミケにお礼を言った。
ああもう、なんでこんなに可愛いかなこの娘は……
いつもの習慣からなのか、または膝に寝ころぶ少女にやられたか、獣の手は自然とミケの頭に運ばれ、髪をゆっくりと撫でていた。

「こ、これ!妾の髪をそんな気易く撫でるでない!こちらでは妾が主人なのじゃぞ!?」

(今更気易くって……)

 ミケは今までの‘設定’を思い出したかのように獣を咎める。が、口を動かすだけで、手も体も動かさない。
 獣は顔を屈め、掃除したばかりのミケの耳に顔を近づけると、そっと囁くように尋ねた。

「じゃあミケ。お願いだからもう少し撫でさせて?」

「う、うう……」

 少し唸ったあと、ミケは息を大きく吐き、

「しょ、仕様がないじゃ!そ、そんなに撫でたいのならもう少しだけにゃぞ?主人の立場である妾を撫でるなど……特別なんじゃぞ!?分かってるにょか、ジュウ!?」

「はいはい。分かってるよ」

「う、うむ。分かってればいいにゃ」

 そう言うと彼女の頭に、獣は指を立てると頭皮をマッサージするかのように動かし始める。掌とは違う伝わり具合にほおぉとため息が漏れるのが聞こえた。
今、獣とミケのいる部屋の中は、甘ったるい空気で充満していた。もしも「場の雰囲気」というものに色があるのだとしたら、二人のいる部屋はきっと、桃色の霧で見えなくなっている筈だ。撫でる方も、撫でられている方も天にも昇る気持であった。

「ま、満足したら次は反対じゃぞ?」

 ミケがそわそわと体を動かしながら獣に呟く。どうやらまだこの部屋から出ることにはならないらしい。



※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



「……もうだいぶ暗くなってるね」

「計画とは違うのじゃ……」

ひんやりとした風が吹き抜け、ミケと獣は遠い目を空に向けていた。だが起きた時には見えていたあの太陽の輝きも、青々とした空も白い雲もない。既に太陽は3分の1は地面に埋もれ、空は青の代わりに橙の光と紫と黒を混じらせた闇に染めかえられていた。

「まさか眠ってしまうとはのぉ……」

 ミケはやってしまったという風な表情で項垂れた。心なしか、跳ね返っている髪もしな垂れてる様に見えた。
反対の耳を掃除していた頃、ミケはいつもの習慣の如く眠気に襲われてしまった。獣が耳掃除を終えた時も、彼女はすやすやと寝息を立てていた。本来は肩を揺するなり声を掛けたりして起こすのだろうが、獣にはそんな選択肢はなかった。ここで眠っている女の子は‘ミケ’であるのだ。当然、彼はいつも通り、そのまま彼女が起きるのを待っていた。
 だが今回は彼女の意に反していたらしく、ミケが目を覚ました時、窓の向こう側に見えた景色を見て、ミケは跳ね起きると獣の手を掴んで部屋から飛び出したのだ。
部屋を飛び出ると、ペディ&チャムを視界から消してだだっ広い屋敷の廊下を二人で駆け抜けた。途中、二人、三人と屋敷の関係者と思われる人たちに出会ったが、ミケはそれを無視して走りぬけた。動きづらそうなドレスを着ているにも関わらず、ミケは獣を引っ張りながら階段を駆け下りて大広間へ、そして木で出来た扉を開けて今に至る。
 ミケのあまりの落ち込みぶりに獣も心配になった。

「ミケ、元気だしなよ。耳掃除の時に眠るなんてよくあることじゃん」

 獣が励まそうとミケに声をかけると、ミケは悔しそうな顔を向けると、泣きそうな声を出した。

「まだまだジュウにさせにょうと思ってたことがあったのに……もう‘時間’がないじゃあ」

「時間?」

 獣が聞き返した時、胸の奥から込み上げてくるものがあった。自然と口が開き、肺の中のモノを全部押し出すような大きく欠伸が出てきた。それと同時に頭の中が僅かな霞に包まれる。急に眠気が襲ってきた。
 
「あれ?なんで?」

 獣は眉間を押さえながら声を出した。さっきまでは普通だったのに。耐えられないほどではないが、段々と睡魔が大きくなる感覚が体に広がってくる。獣の体に、夜更かしをしているような感覚が出てきた。
ミケは「やっぱり」といった風な様子で獣を見ている。

「あ~やっぱりにゃ。そろそろ限界にゃろうな」

「ど、どういうこと?」

「分かってるとは思うんにゃけど、『ココ』とジュウの世界は別の場所にゃのじゃ。だけど凄い近いから、誤差はあれど時間の流れはほぼ一緒なんじゃよ」

「つ、つまり?」

「ジュウが起きた時、こちらでは朝じゃったけど、ジュウの世界ではまだ夜中だったっということじゃ」

 ミケの答えに獣はまだピンと来ていなかったが、しばらくしてハッと気づく。

「じゃ、じゃあ僕、‘ほとんど寝てない’ってことなの!?」

「ジュウが寝入ったあとすぐに連れてきたから、1時間も眠ってにゃいんじゃないかにゃ?」

 ミケの言葉を聞いた途端、頭に掛っていた霞がさらに深くなった気がした。

―ミケは‘眠った直後’の僕を連れて来て、すぐに起こしたんだ。

起きた時は外が明るかったから気づかなかったのだ。ミケと一緒にいたからあまり意識してはいなかったが、知らない世界に来ているという緊張が、獣の頭を覚醒させていたのだ。だがこちらに来てほぼ徹夜で動いているわけだから、眠気が襲ってくるのも当然だ。

「‘時間’がないって、こういうことなんだ……」

「そうにゃもし」

 そう言うとミケは獣の前に人差し指を立てると、

「流石に!妾もジュウが苦しそうなところは見たくないでの!にゃからジュウがまだ元気な内にやってもらうことがあるにゃ!」

「そ、それって?」

 獣がミケに聞くと、ミケは「にゅふふん♪」と嬉しそうに笑った。

「本来は飼い主がするべき基本中の基本じゃ。にゃけどもそれを怠ってきたジュウには分かんないにゃろ~」

「???」

 眠気がある所為なのか、獣にはミケがすることがまだ分からない。
 得意げな表情をしているミケはスッと髪を撫で、獣を一瞥して言った。

「妾が『散歩』に連れてってやるのじゃ」

「散歩?」

 意外な答えに、獣は思わず聞き返してしまった。

「聞けば飼い主たるもの、ペットが運動不足ににゃらないように定期的に散歩に連れていくらしいじゃにゃいか。にゃが、思い返せばジュウ、妾はこの10年間お前に散歩に連れてってもらった覚えがにゃい!」

ビシッと指で獣を指し、自信たっぷりにミケは言った。それを聞いていた獣は、確かに散歩に連れて行った事はないな~とぼんやりと思った。確かにペットが運動不足にならないようにするため散歩は、飼い主がするべき基本的なことかもしれない。
唯、それは「犬」とかのような動物にするものでは……
獣の頭に浮かんできた疑問を余所に、ミケは喋り続ける。

「ジュウときたら、妾を抱くばっかりじゃからのぉ~ニュフ、妾を見れば持ち上げてフフ、頭を撫でたり喉元をくすぐったり……ニュホホ♪は、腹をワシワシしたり……」

 ミケはそこで話すのを止め、顔に手を当てて「ニャーッ!!ニャーッ!!」と恥ずかしそうに体をくねくねと動かし出した。隣で聞いている獣も思わず照れる。
 ミケの可愛いさにやられて抱きしめたり撫でまわしたりしていたのは事実だ。ただ、こんな風に口に出されて言われるのは結構恥ずかしい。

「全く、い、いつもは大人しそうな顔をしているくせして妾の事になると途端に大胆になりおってからに……でもそ、そんなジュウは嫌いではないにょよ?じゃが場所をわきまえてじゃな……」

 女の子の姿で、もじもじと顔を赤くして話すミケの姿が何とも可愛らしい。獣はほわんとした目でミケを見ている。

(可愛いいなぁ~)

「ま、まあ妾の魅力に惹かれるのは分かるがにゃ!?愛でるだけが飼い主じゃないのじゃ!時々は外に出させて運動させんと!」

 ミケはニヤケた顔を無理やり引き締め、

「というわけで、これから妾が特別にジュウを散歩に連れていってやるにゃ!!」

 と獣に指を突き立てた。ミケの小さな指を前に、獣は一応の反論をしてみる。

「でも、猫って散歩させるものではない気がするんだけど……というかミケだっていつも一人で外に出てるし」

「シャーラップッ!!ご主人さまに口答えは認めにゃいな!」

 予想通り一蹴された。だが獣も別段、散歩することに不満はなかた。今まで(勝手に二人で)ずっと部屋に閉じこもっていたし、体を動かしたいと思っていたトコロだった。
 獣がそう考えていると、「コレ!例のモノを!!」と、部屋と同じように、出てきた扉の方へミケの声が響き渡った。するとバンッと盛大に扉を開いてミケのボディガードである二人組の大男、ペディ&チャムが早足でミケに近寄って来た。その手にはやはり先程と同じく何か持っている。
 ペディ&チャムは握っていたモノをミケに渡すと、獣の元へと近寄り、またしても同じく、片方ずつ獣の手足を押さえつけた。

「あの、別になにもしないし押さえなくても……」

「そやつらの仕事のうちじゃ。気にするにゃ」

「それは無理だよ」

 獣は左右に顔を向けた。筋骨隆々な体が獣を挟むかのように並んで、肩と太ももの部分を掴んでいる。相変わらず必要以上に力を込めてくるので掴まれている箇所が痛いのだが、身をよじれば余計に力を入れてくるのは先の部屋で経験済みなため、じっと我慢する。そんな獣にミケは近づくと、首につけられている首輪にささっと何かを取りつけた。

「よし!OKにゃ」

 その言葉に反応したのか、ペディ&チャムは獣から手を離す、と思いきやなぜか獣の体をゆっくりと上に持ち上げ出した。これには獣も驚く。

「え?え?なに、え?」

 獣が戸惑っている隙に、大男二人組は獣を放り投げた。今度は絨毯ではなく、草の生えた芝生の上に投げ出された獣の腰に再度衝撃が走る。理不尽な痛みが腰から背中にかけ、頭に届くと涙が出てきた。

「じ、じっとしてたのに……」

 嫌なことに、放り投げられたことである程度眠気が飛んだ。

「にゃつらの仕事だから仕様がないにゃ」

「うう……間違ってるよそれ」

 獣は痺れた足に力を入れて立ち上がろうとした。すると、「にょ!」と急にミケが叫ぶと、獣に近寄り、立ち上がろうとするのを上から押さえつけた。

「ちょ、何するのミケ!?」

「立つ必要ないのじゃ!獣はこのまま、四つん這いで散歩に行くのじゃッ!!」

「へっ?ちょっと何言って……」

 尚も立ち上がろうと獣が背中を反らした時、首から新たに金属音が聞こえた。ただしそれは、鈴の音のように軽いモノではなく、重たいものを引きずるような音だ。獣の手が首へと伸びていった。ミケにつけられた首輪の感触に、新たにひんやりとした固い物が首輪につながっている。そしてそれは獣の首から伝ってミケの手にその一端が収められていた。

「……鎖?」

 獣は首に繋がれた鎖を手に持って呟く。鎖は銀色の光沢を放ち、鎖同士がカチカチと鳴った。
人間に鎖って……首輪も駄目だろうけど、これはもうアウトなんじゃないのかな?
 頭を悩ませていると、ミケがきょとんとした顔で獣に聞いてきた。

「?散歩といえば鎖にゃろ?ペットの首に付けてリードしてにゃらんと」

 ミケはさも当然のように言う。確かに否定も出来ないが、肯定も出来ない。動物毎によって違うんじゃないだろうか。

「ミケ……飼い主としては正しいかもしれないけど、流石に鎖で引かれるのはちょっと……」

「??でもこれが散歩の‘スタンダード’にゃろ?ジュウの近所でよくみるにゃけど」

「う~ん、そうかもしれないけど」

 獣はなんとか説得しようと言葉を選んでいた。ミケはきっと近所の人が「犬の」散歩をしているところを見て、勘違いしているのだ。でもそれは相手が犬だからで、人が散歩する時は常識的には鎖はつけない。少なくとも獣の生きてきた16年間ではそれが正解だ。
 獣が悩んでいると、ミケは尚も言葉を続ける。

「ホレ、ジュウの隣に住んでいるのもこうして散歩しているにゃ!」

「うん、だから……」

 その時、獣の体がピタッと止まった。
 ミケは今なんて言った?お隣?お隣っていうと山田さんか田口さんだよね?確かにご近所にはペット飼ってる人は多いけど、山田さんも田口さんもペット、『飼っていなかった』気がするんだけど?
 獣はしばらく押し黙った後、自分の考えが間違いだと確認するためにミケに尋ねた。

「あのさミケ?」

「にゃんじゃ?」

「それって犬をそう散歩しているってことだよね?」

 きっとそう、自分が知らない内に犬を飼い始めたんだ。
 獣はゆっくりとミケに聞く。だがミケは目を吊り上げると、

「なにをいっておるにゃ、ジュウ。いくら妾でも‘犬’と‘人間’の違いくらい分かるにゃ!!」

 ミケの答えに、獣は空いた口が塞がらなくなった。
 眠気は飛んだ筈なのに、頭がクラクラしてきた。なぜか急に肌寒くなってきた気がする。
 獣の気持ちを余所に、ミケは続け様に口を開く。

「ジュウを連れてきた時もそうだったぞ?夜中になるとこうやって散歩してたにゃ。旦那に鎖をつけて……」

「やめてミケ!!もう聞きたくないッ!」

 獣は両耳を手で塞いでミケに懇願するように言った。
これ以上聞いてしまえば、明日からどうやって近所付き合いしていけば分からなくなってしまう!



※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



「ホレ、どうしたのじゃジュウ。もっと元気よく歩かぬか」

「元気よくって……」

 首に繋がれた鎖を見ながら、獣は軽快に前を歩くミケの後ろで慣れない首輪と鎖の感触にため息を吐いた。
流石に四つん這いの姿勢は歩きづらいため、二足歩行で獣は歩いていた。それだけであれば只の散歩に見えるのだが、獣の首に巻かれた赤い首輪と、そこから少女の手に伝っている鎖が何とも違和感を覚えさせる。首輪に付いている鈴と鎖からは規則的に「チリン、チャラ、チリン、チャラ」と音が鳴り、獣の世界であれば職務質問は確実に免れないだろう光景であった。

(ミケの世界でホント良かった……)

「ほれ、ジュウ。モタモタするでにゃい。主人に前を歩かすとはペットの風上にも置けないヤツにゃ!」

「分かったからミケ引っ張らないで、首が締まるよ!」

 ミケはどんどんと先へ進もうとするのだが獣の首輪の端はミケの手の中であり、ミケが行けばいくほど、獣の首が引っ張られてしまう。その度に元々運動は得意でない獣はうめき声を漏らす必要があった。
 そんなやり取りを繰り返しつつ、獣とミケは整備された中庭を抜け、やがて横に木が立ち並ぶ街道のような場所へと着いた。薄暗くなった土の道を、左右に生えた木々から出ている不思議な光が照らしている。木の一本毎に光の色が微妙に異なり、中央に敷かれた土道を、虹の様な色合いへと変化させていた。

「うわ……凄いなぁ」

 首の痛みも眠気も忘れ、獣が驚いていると、いつの間にか隣に立っていたミケがふふんと胸を張った。

「にゅふふん♪驚いたか、ジュウ。しかし、ここもグリム家の庭の一部なのじゃがな」

「ホント凄いよミケ。イルミネーションみたい」

 まさにファンタジー。木々の光に照らされた道に、獣が見とれていると、突然獣の手がギュッと握りしめられた。思わず獣が横を向くと、ミケが目線を泳がせながら獣の手を握りしめていた。

「ミケ?」

「も、もう鎖でジュウを引っ張っていくのは疲れたにゃ」

そう言うとミケはもう片方の手を獣の首輪に伸ばし、ガチャッと鎖をはずした。鎖は獣の体をなぞるように地面に落ちていき、金属音と土の湿った音が二人の間に聞こえてきた。

「こ、今度はジュウが妾を引っ張ってくのじゃ」

 ミケの口調は強かったが、木々の光で明るくなっている道の上で彼女の顔はほんのりと赤く染まっていた。光の加減というならば、少々不自然にも見える程に。
 獣は一瞬あっけにとられたが、上目づかいで見てくるミケの目線に、再び胸がドキッと高鳴った。

「う、うん」

 獣は頷くと、ミケが握ってきた手をギュっと握り返した。ミケが一瞬、ぴくりと反応し、顔を下げた。獣はチラリと鎖を見ると、ミケにニコッとほほ笑んだ。

「着けなくていいの鎖は?」

「ご、ご主人さまに着ける必要はないのじゃ!それにの……」

 獣と繋がっている手を顔の前に上げ、ミケはニヤッと笑った。その手首には、獣がミケに着けた赤い首輪が小さな鈴を揺らしていた。

「ホレ、妾の首輪にはもう、ジュウが繋がっているからの」

 得意げに言ったミケはしばらくすると、自分の言った言葉に恥ずかしさを覚えたのかみるみるとその顔を赤く染め、地面に宝物でも埋まっているのではないかというように俯いてしまった。獣も言われた恥ずかしさに顔が熱くなるのが分かった。胸はキュゥと絞められるような感覚が沸き上がり、頭の中は真っ白くなり、常に纏っていた眠気さえも消えた。

(――――△■?&%――~~!!!!?)

 気がつけば、獣はもう一方の手でミケの肩を掴んでいた。

「ジュ、ジュウ?」

 ミケはとろんとした目で見上げてくる。それがさらに引き金となったか、獣はミケの肩に回した手の力を強め、抱きしめようと……

「……」

「「……」」

 獣の視認できる範囲。光る木々のその間から、ペディ&チャムの濃い顔がこちらを睨んでいた。

「ジュウ?」

「……」

((調子に乗んな))

 ペディ&チャムの口は動いただけで声は出ていない筈なのに、不思議と獣には彼らの意思が伝わってきた。また違う意味で眠気が吹っ飛ぶ。ミケも肩を抱いたまま固まった獣に異変を感じたのか、獣の視線の方へと体を向けたが、ボディガード達は絶妙なタイミングで隠れてしまった。

「どうしたのにゃぁ?」

「な、なんでもないよ!?い、行こっか?」

 ドキドキと鳴る心臓を誤魔化すよう、獣はミケの手を強く握ると体を道の方へと向ける。肩から手が離れる際にミケが名残惜しそうに眉をひそめたが、「そ、そうじゃな!散歩の続きにゃ!」と元気よく声を出すと、二人で歩調を合わせるように歩き始めた。
 空はもうすっかりと暗くなり、光る木で照らされた道と、そこを歩く二人だけが暗闇に浮かんでいるかのように見えた。冷たい風がひんやりと獣とミケの顔を撫でる。パジャマ姿の獣にも、ドレスのみのミケにも風は寒く、互いに体を震わせ、繋いだ手を強く握り直した。ミケの手から、柔らかく、ひんやりとした感触が伝わってくる。
 一瞬、背後に『あの二人』の気配を感じ、獣はゾクリと背中に寒気を感じた。チラリと後ろを振り向く。後ろにはペディ&チャムの姿はなかっが、ミケが外してくれた鎖は、落ちていた筈の場所からはなくなっていた。

(いつの間に……)

 獣の背中に再び寒気が走る。ゾクゾクと嫌な震えが来るのはパジャマ姿だとか、急に冷たい風が吹いてきたからではないだろうと、獣は思った。

「ニャー♪ニャニャ、ニャンニャンニャニャ~♪」

 鎖で繋いでいた時よりも機嫌の良い、ミケの表情が獣には救いだった。

「「爆発しろ」」

ミケとの5:2の主従関係

 高校生の少年と愛猫のラブコメを書いてみました♪

 思えば甘甘な物語書いたことないなーっと思いまして、今回短編でチャレンジしてみました。

 いや~ウサギの願望もろに出た内容になっておりますが、ぜひ楽しんで読んで頂けたらと。

 あとウサギの願望なのですが……

 だれか登場人物のイラスト描いて欲すぃヽ(´Д`)ノ

 最初から最後まで欲望ダラダラなウサギでした~


 ミケとの5:2の主従関係
 前編
 中編
 後編 

ミケとの5:2の主従関係(前編)

 猫ノ目獣(ねこのめ じゅう)と愛猫のミケの付き合いは長い。獣は小学校一年の時にミケと出会い、高校生になった今年から数えれば、既に10年になろうとしている。獣にも小、中、高と友達はいるが、ミケ程長く、親密に付き合っている奴はいないだろう。一緒の寝床で眠ったり、朝になると起こしてくれるミケは兄弟のいない獣からすれば、雌であるミケは姉か、妹のような存在同然であった。
この日も長かったテスト期間がようやく終わり、昼前に学校から戻ってきた獣は、家のリビングに置かれたソファに腰を降ろし、獣の元にやってきたミケを抱きしめていた。嬉しそうに眼を細めるミケに癒されつつ、チラッと窓に目をやると、外はどんよりと曇り、春の冷たい雨はシトシトと雨粒を落としていた。午前帰りが出来た上、明日からテスト休みだというのに突然降ってきた雨。獣は雨の降る庭を見ながら、膝元で転がるミケの頭を撫でた。自然とため息が出てくる。

(ああ、こんな雨じゃ外に出る気しないなあ……)

獣はミケの首元に手を当て、ゴロゴロと小刻みに指を動かした。こういう時は愛猫のミケと遊ぶのに限る。黒と茶のまだら色の毛をしたミケは膝元で顔を上げて一言、「うにゃ」と鳴くと、獣にのっそりと体を預けるように擦り寄せてきた。
ああ、なんて可愛いんだ。
獣はそのしぐさだけで、テストの疲れがほうっと外に出ていくような感覚を覚えた。
獣はソファに体を沈め、ミケも獣の体に身を沈めた。両親は仕事で家にはおらず、家の中は獣とミケだけの空間となっていた。雨音がパラパラ音を立て、獣とミケのいるリビングは、心地よい静けさに覆われていた。
 
「あ、そうだミケ。今週は耳掃除まだしてなかったね。暇だし、今やろうか」

獣はミケの背中を掻きながら言うと、ミケは嬉しそうに「にゃ♪」と短く鳴いて獣の膝から飛び降りた。これから獣が綿棒を取りに行くのを知っているので、獣から降りたのだ。獣はソファからのっそりと腰を上げると、隣の部屋へと移動した。ミケが足下をウロウロとついてくる。獣は戸棚の薬箱の中にある綿棒を数本取り出すと、再びソファに戻って腰をおろした。そのタイミングを見計らったかのように、獣が腰かけた瞬間にミケはピョンと獣の膝に飛び乗ると、獣が耳掃除し易い様、体をべたっと腹ばいに倒れた。
ミケは耳掃除が大好きだ。獣がなにもしていない時は常にというくらいねだってくる。獣もミケの耳のケアのため、一週間に一度は必ず行うのだが、やり始めると、ミケは少なくとも一時間は獣の膝に居座り続ける。おまけに、やっている最中にミケが寝てしまうと無下に起こすことも出来ず、半日ずっとそのままってことも珍しくなかった。
ミケが獣の膝に体を預けると、首に巻かれた赤い首輪からチリンと、小さく鈴の音が響いた。獣がミケに合った年、獣のお小遣いで買った首輪だ。時々手入れはしているのだが、帯の赤色は薄くなり、鈴は僅かに錆を浮き上がらせていた。
思えばもうすぐミケの誕生日だ。誕生日といってもミケが獣の家に来た日の事なのだが。

「丁度買い替え時かな」

「にゃ?」

 獣がぼそっと呟いたのが聞こえた様で、ミケは倒した顔を獣に向けて短く鳴いた。獣は「なんでもないよ~」と優しくミケに言うと、ミケの背中をゴシゴシと撫でる。するとミケは気持ちよさそうに喉を鳴らし、顎を獣の膝にくっつけてくてっとなった。

「じゃあ始めるよ」

 獣は手に持った綿棒を、ミケの耳の中に入れようと背中を曲げた、その時、

PRrrrrrrrrrrrrrrrr!!!!

獣のポケットからケ―タイの音が鳴り響いた。静かな部屋に突然響き渡った音に獣はドキッと体を震わせた。獣の動きにつられて、ミケも思わず膝から飛び降りてしまった。

「だ、誰から?」

 獣はそう呟くとポケットからケ―タイを取り出した。液晶画面には友達の名前が映し出されている。高校に入ってから出来た友達だ。

「もしもし?」

 獣が話しかけると、ケ―タイから雑音が混じった声が聞こえてきた。

―『あ、猫ノ目?お前今何処にいる?』

「どうしたの?」

―『今さ、テストが終わったことを祝して皆でカラオケ行こうって話になってんだけどよ、お前も来る?』

「カラオケ?」

 獣はチラッと窓の外を見た。雨はまだ降っていたが、大分弱まりさっきよりも強く降ってはいない。外出するならさほど問題にはならないが、

―『クラスの女子もくるぞ。ほら、お前が気になっている犬飼(いぬかい)さんも来るってさ』

 友達のその一言で、獣の心はグラっと傾く。犬飼さんは今、獣が気になっているクラスメイトだ。犬飼さんが来るのなら多少嫌いな雨が降っていても―と獣が思っていると、

「にゃああ~」

 いつの間にソファに乗ったのか、ミケがこちらを見て低く鳴いていた。先程の幸せそうな顔とは違い、獲物を狙う時の、ネコ科独特の鋭い目で獣を睨んでいる。その足下には耳掃除しようとしていた綿棒が転がっていた。
「行くな行くな。私の耳掃除があるだろ?」と獣に言っているようだ。
獣もミケの心を察したか、ゴクリと唾を飲みこんだ。
 ミケを取るか付き合いを取るか……獣はしばらく口を閉じて考えた。そして、

「分かった。行くよ。何処で待ち合わせ?」

「!!!?」

獣はカラオケを選んだ。その瞬間、ミケの目がカッと見開いたのを見てしまった。その目に獣は驚き、喉から小さく声が漏れた。

―『猫ノ目?どうした?』

「い、いやなんでもないよ。それで、集まる場所は?」

 それから獣は集合場所と時間を聞き、ケ―タイをポケットにしまった。そして、チラリと横を見ると、ミケが信じられないといった具合に目を開き、口をあんぐりと開けていた。
 その表情に、獣は申し訳なさそうに謝った。

「み、ミケ……ごめんね。ちょっと用事が出来たからさ、耳掃除は明日にでも」

「ふにゃあああああああ~ッ!」

「いい訳なんか聞きたくないわ!」とでも言いたいのか、ミケは悲しそうに鳴きながら、ソファからおりてリビングを出て行ってしまった。ポツンと残された獣は、なんだか申し訳ない気持ちで胸が満たされた。
 ミケは賢い猫だ。せっかく好きな耳掃除が中止になり、傷ついたのだろう。

(悪いことしちゃったな~)

獣はそう思いつつも、自分の部屋へ行き外出着に着替えた。着替えている途中、ドアの隙間から送られるミケの視線が嫌に痛かった。

(今日のご飯はミケの好きなツナ缶を使おうか)

 そう獣は考えつつも、憧れの子とカラオケをする楽しさに期待を膨らますのであった。






「……フーッ!!」



※※※※※※※※※※※



 カラオケの翌日。学校が休みである獣はいつものようにベッドの中でまどろんでいた。暗闇の中で、布団の心地よい感触を楽しんでいると、ふいに大きな声で呼ばれた。

「ジュウ!起きろ!!」

(……?なんだろう……)

 獣はてっきり、母親が起こしに来たのかと考えた。だが母も今日は学校がないのは知っている筈だ。それにこの声は母のものではない。それに今耳に聞こえてくる声は、母よりも若々しく、聞いたことのない女性の声だ。

(え……?誰?)

 目をぱっと開け、寝たまま首を動かして声の主を確かめる。目の中に急激に光が差し込み、目の前が白く輝いて見えた。獣は数瞬、眩しさに目を細めていたが、やがて光に慣れてくると視界がはっきりとしてきた。そして視界の中心に、

「起きたか。たわけめ」

一人の女の子が立っていた。
突然知らない女の子が目の前に現れ、獣は固まったまま女の子を見ていた。しばらくそのまま黙っていると、女の子は大声を出した。

「おい、こやつを寝床から出すのじゃ!!」

「「イエス。ボス」」

 女の子が誰かに命令したかと思った瞬間、獣は何かに体を掴まれると、ものすごい勢いでベッドから引きずり出された。急な出来事に、獣は「おわああっ!」と思わず声を上げてしまった。自分の肩と足を片側ずつ、大きな体をした男二人に持ち上げられているのだ。

「なに!?なんなの!!?」

「何ではないにゃろう、ジュウ。いつも通り起こしてやったのじゃ」

 獣は目が回りそうなほど混乱していたが、落ち着く間もなく、半ば投げられるように床に下ろされた。足から着地出来ず、床に打ちつけたお尻がビリビリと痺れる。そのおかげにもしたくはないが、先ほどまでの睡魔はどこかへ飛んで行った。

「いたたた……」

「目が覚めたかにゃ、ジュウ?」

 頭の上から降りてきた声に、獣は顔を手で拭いながら女の子の方を見上げた。
 最初に引き付けられたのは、丸く、くるりとした目であった。俗にいうネコ目。じっと獣を見てくる瞳には、鏡のように獣が映りそうである。短く、点々とパーマのかかった茶色の髪は、所々が逆立ち、毛先に黒色を混じらせている。日に焼けた健康そうな肌で活発的な印象を受けるのだが、その服装はそんな想像とは違う。
チョコレート色のドレスに、宝石が散りばめられた物を見に漬けており、どう見ても、お嬢様であった。

「え~と、どちら様……」

 その時、獣ははたと気づいた。
 ここは自分の部屋ではない。いつも起きると目に入る窓は明らかに豪華な造りになっていて、落ちた時は気付かなかったが、ゴツゴツしたフローリングの固さも絨毯で覆われている。猫のポスターが貼られていた白い壁は消え失せ、まるでゲームに出てくるお城の部屋みたく、奇麗な石で形作られていた。あっと思い獣は背後を見たが、やはりベッドもいつも自分が寝ているモノではなく、きらびやかな装飾が施されている。

「ってかここ何処なの!?」

「ふふん。驚いたかにょ、ジュウ。まあ、これでも妾の部屋と比べれば大したことはにゃいのだぞ」

 疑問を投げかけても答えてくれそうにない目の前の女の子を、獣はジッと見た。先程から当たり前のように自分の名前を呼んでいるが、この娘と知り合った覚えもなければ、親戚にお嬢様がいるわけでもなく、頭の中の手帳から、思いつく人間関係を開いてみたが皆目見当がつかない。だが心の中ではなぜか、あまりにも非現実的なのに予想がついた。名前を尋ねようと口を開いた獣だったが、思っていたことが自然と口から出てきてしまった。

「ミケ?」

「ふふん。そうじゃよ?驚い……ん?」

 得意げな顔を浮かべていた女の子は獣の言葉を聞くと一転、丸い目をもっと丸くして獣を見てきた。その反応に獣はきょとんとなってしまったが、女の子は隣にいる、獣をベッドから引きずり出した男たちを手まねきすると、獣に背を向けてボソボソと話し始めた。

「ちょ……妾今人間になっているにょね?猫じゃにゃいよね?」

「「イエス。ボス」」

「だったらなんで獣にバレたのじゃ!?普通はこちらが正体を明かすまで分からにゃいもんじゃろ!?」

「「イエス。ボス」」

獣に隠そうとしているらしいが、ぼそぼそと零れる女の子の声は獣には十分届いてくる。やがて女の子はクルリと獣の方へ向きなると、

「な、なななんで妾がミケだと思うのじゃ、ジュウ?」

「え、それじゃ……」

「妾は理由を聞いているのじゃッ!!いやまだ妾がミケだって決まったわけにゃないのじゃよ!?だって妾は今、人間だもの!!」

 「今」ってことは人間じゃない時もあるのかな……
 獣はふとそう思ったが、丸い瞳を左右へ泳がす女の子を見ると、そこはツッコまない方がいいかなと一人考えた。

「答えよ!!獣!!なんで妾がミケだと思うのじゃ!?」

「え、ええ~っと……まあ、なんだろうね、何でかな」

「何がじゃ!?」

 獣は頭に手を当ててワシャワシャと髪を掻いた。気まずくなったり、考え事したりする時の獣の癖だ。確かに、目の前の女の子は自分が知っているミケの姿ではない。こんなに大きいし、喋っているし、ドレス着てるし、というか姿どころか種族もまるまる違うし。あまりに非現実的でファンタジック。しかし、獣にはなぜか、自分のその予想は合っていると確信があった。

「説明にならないと思うんだけど、」

「んにゃ?」

 獣は一瞬間をおいて、

「いつも一緒にいたんだから、間違える筈がない。姿が違くても、君はミケだと思う」

獣はそう言い切ると、途端に恥ずかしさが込み上げてくるのが分かった。何を言ってるんだろう自分は。これで間違っていたらかなり間抜けではないか。だが獣の答えを聞いた女の子はというと、あうあうと口を半開きにいして目をぐるぐる回し、再び獣に背を向けて男たちを集めた。
 
「なに、なんじゃ?なにを急に言い出すのじゃ?あんなギザっぽいこと言う奴じゃないにょに」

「「イエス。ボス」」

「い、いい、いつも一緒にって……ニョホホホホ、間違える筈がないって……ンニャハハハ」

「「自惚れんな」」

「!!?」

 男たちの言葉に獣も女の子も驚きつつ、女の子は獣の方に向き直った。口の端がピクピクと動いているのが獣の所からでも見てとれた。

「ふ、ふむ。さ、流石はジュウじゃな。まあ、確かに妾と長い間生活をしてきたのだから、このような姿でも気付くのは当たりまえじゃ」

「でさ、ホントにミケなの?」

 獣が確認しようと尋ねた瞬間、女の子はカッと目を開くと足を獣の肩に押し当ててきた。さほど痛くないが、急な攻撃と座ったままの姿勢のため、獣の体は後ろに傾き、背中をベッドの端にぶつけてしまった。

「あいた」

 あまり痛くはないのだが、ぶつかった時の反応で思わず声が出た。
 女の子は足を獣の肩を踏みつけ、獣を見つめて大きな声を上げた。

「言葉を選ぶのじゃ、ジュウ。この世界ではお前のいる世界と違うのだぞ」

「ええ?」と聞き返した獣を余所に、「ふふふ、驚いてる驚いてる……」と口に出しつつにやける女の子は、獣を見下ろすように顎を上げた。

「ふふ、確かにジュウの思っておるように、妾はミケじゃよ。だがこの世界ではお前の知る只の猫のミケではないのじゃ。由緒正しきグリム家が長女、ミケ・エレオノール・フランヌ・ド・グリムなのじゃ!!」

 女の子が獣にそう告げると後ろの方で男たちが太鼓を叩いて「デデーン!!」と音を鳴らした。あまりに突拍子のない事の連続に聞きたい事がたくさんある獣であったが、最初に何を聞けばいいか分からず声が出てこなかった。しばらくして一言、ポツリと出た。

「じゃあ、ミケなんだ?」

「うん。そうにゃ」

 どうやら女の子がミケであることは間違いではなかった。



※※※※※※※※※※※



「……それじゃあ、ミケはこの世界ではお嬢様なんだ」

「ふふん。そういうことじゃ。すごいにゃろ?」

 あれから獣のベッド(があったんだけど、今はすっかり豪華に……)に座り、ミケは終始得意げに、今獣のいる世界の事を話した。先程までいた二人の大男たちは、今は部屋にいない。床に座らせられた獣は、ミケの話を耳に入れつつ、頭の中で整理をし始めた。
 まず、この世界は獣のいる世界とは別の世界であった。ミケの話ではアニメや漫画で見るようなモンスターとかはいないそうだが、魔法なんかはあるそうだ。ミケはそんな魔法を使う家の娘さんであるらしく、見たままであるがお嬢様であるというワケだ。
本人も魔法が使えるそうで、それで獣のいる世界とこっちの世界を行ったり来たりすることが出来るらしい。ミケは大まかな概要を説明し終えると、自分の使う魔法について喋り始めた。

「この魔法はじゃな。ジュウのいる世界へ行く時は人ではない別の生き物に変わるようになっておるのじゃ」

「なんで変わるの?」

 獣は興味深げに尋ねた。

「人の姿で行き来すれば、あっち側の世界の人間に怪しまれるかもしれんであろう?万が一の事を考えて、あちらでは他の動物になって生活するんじゃ」

「へえ~」

「ふふふ、驚け驚け」

 ミケは機嫌よさそうに微笑んだ。あまりにもファンタジーな設定に獣の頭はまだ付いていけてない感覚はあったが、そう説明されると逆に納得出来た。不明確なことは魔法で片づけられる。日頃ファンタジー小説を読みふけった賜物であろうか。

「だけどさ、ミケ」

「なんじゃ」

「ここがミケのいる世界だって事はいいんだけど、なんで僕までいるの?」

 獣はミケに尋ねる。答えは大体予想がつくが。

「それは簡単じゃ。妾が連れてきたのにゃから」

「……まあ、うん」

 予想ぴったりだ。

「そう、ここからが本題にゃよ、ジュウ」

 ミケは自分が連れて来た事を告げるとバッとベッドから立ち上がり、腰に手を廻してゆっくりと窓へ歩み寄った。窓の外は別世界の風景が切り取っていて、獣の視界にも木々に芝生の明るい緑が遠くまで広がり、獣のいる所とは明らかに違った景色を映していた。

「ジュウ、妾はジュウの世界ではなんじゃ?」

「え?」

 急に漠然とした質問を振られ、獣は少し考え込んだ。

「ね、猫?」

「猫は猫じゃよ!そうじゃにゃく!妾はジュウのなんじゃと聞いておるのじゃ!?」

「ペット?」

「そう、それ!!」

 ミケはジュウの方を指差し元気よく声を上げた。その迫力に獣は思わずのけぞってしまう。

「これまでジュウとは縁もあって、猫としてジュウに飼われてじゃろ?」

「……う、うん」

「妾も時々こっちには帰ってきていたがにゃ。ま、まあジュウの世界も悪くないにょでな。気づけばもう10年も経とうとしておる」

「長いよね~」

 今までの思い出がしみじみと蘇ってきて、二人の間にほんわりと、楽しかった記憶が蘇ってきた。家の中で過ごしている場面がほとんどなのであるが。そんなゆるりと流れ始めた空気を蹴散らすように、ミケはドンと足を踏みならした。

「だがしかあし、ジュウ!!最近たるんでおらぬか?」

「ええ!?」

 ミケの指摘に獣は声を漏らす。
たるんでいるとはどういうことだろうか。

「ジュウの世界では良く言われておるじゃろ。飼い主というのはペットの面倒を最後まで見なければならんと」

「う、うん。うん?」

 ミケの迫力に獣は押されて思わず頷いてしまうが、自分が肯定したことに疑問を感じた。
ミケが言いたい事はなんとなく分かる。つまり自分は、飼い主としてミケの面倒を見ていなかったと。そう言いたいらしい。だがこれまでの記憶を遡っても、獣には特別、ミケの世話で手を抜いたというモノはなかった。
餌は毎日二食、手作りのモノを与えていたし、水も用意していた。お風呂は時々出来なかったこともあるが、それはミケが逃げ出すのがいけないから言われる由縁はない。トイレの処理も獣が行っているし日頃のケアも……

「もしかして昨日、耳掃除しなかったことについて!?それが理由!?それとも昨日の夕食が遅かったコト?」

「違う、そんなことじゃ……」

「昨日は確かに僕が悪かったけど、代わりにミケの好きなツナ缶で夕食作ったじゃないか。ミケだって嬉しそうに食べてたし」

「そうそう、ツナにオカカとマヨネーズを和えたのをご飯に混ぜた奴♪あれは反則級の美味しさにゃ。シンプル・イズ・ザ・ベスト……って違うにゃ!!」

 嬉しそうに語ったと思いきや、ミケはハッと気づいて獣に大声を上げた。どうやらミケが怒っているのはソコではないらしい。獣はまた考える。だが獣が身に覚えのある範囲では昨日の事しか挙げられない。答えが出そうにもないと察したか、ミケは口を開いた。

「ふん、どうせジュウには分からないじゃろうよ」

 明らかに不機嫌そうに眼を細めながら、ミケは部屋中をトコトコと歩きまわりだす。そして獣の前で足を止めると、

「ジュウには分からんにゃろうが、今まで主の至らぬ点には目を瞑ってきたがここいらで我慢の限界がきたじゃ。どうもジュウには飼い主としての自覚が足りないと見える。そこで!」

「?」

「グリム家長女である妾が飼い主とは何たるかを直接教えこんでやるのにゃ。ジュウ、今から妾がお前の飼い主、お前は妾のペットじゃ」

「ええ~!?」

 お姫様のペットというと、獣の頭には仮面を被り鞭を振るっているご主人様が想像された。それで叩かれるのが僕という事は……それはちょっと、絵的に不味い。

「ちょっと待ってよミケ。そんなことしなくても、お互い話せるんだから話し合いで解決しようよ。不満があるなら今言ってくれれば」

「シャ~~ラップにゃ!異論は認めんぞよ!と、とにかく!お前はここでは妾のペットなのじゃ!はい、決定!!」

 さんざん喋っていたミケはここで話を止めると、「コレ!例のモノを!」と慌てるようにドアの方に声を掛けた。するとドアはガチャリと開き、例の大男たちが入ってきた。二人の手にはそれぞれ、なにか握られていた。

「な、なに?」

「お前は妾のペットなんじゃから、コレはつけとらんと」

 男は握っていたモノをミケに渡すと、獣の元へと近寄ってきて、ベッドから引きずりだした時と同じく、片方ずつ獣の手足を押さえつけた。ミケは「ニョホホ♪」とほほ笑みながら、獣の首に手を廻して何かを取りつけた。

「み、ミケ。なにしてるの?やめてよ!それとこの人たちなに!?」

「双子のペディとチャムじゃ。こっちでは妾のボディガードをしているにゃ。大人していればジュウに危害を加えるつもりはないぞよ。のう?」

「「イエス。ボス」」 
 
 そう言葉を返す二人だが、獣を掴んでいる部分に力を込め過ぎているのか普通に痛い。獣は痛みから逃げようと体をよじるが、一層二人の込める力が増した。
 しばらくして、ミケが手を首から離れた。横から抑えていたペディ&チャムたちも、獣を解放する。再び絨毯の上に放り投げられた獣の腰に衝撃が走った。痛む腰をさするのも程々に、獣は慌てて立ち上がると、首元に手を当てた。自分の肌とは異なる感触を覚え、首元に軽い圧迫感が広がる。首が動くたびにチリンチリンと金属音が部屋に鳴った。ここでも、獣には首に巻かれたモノが予想ついた。

「首輪ぁ!!?」

「そうじゃよ。嬉しいにゃろ?」

 ミケは嬉しそうに言った。いつの間にか、ペディ&チャムのどちらかが手鏡を持って獣に向けていた。鏡に映る獣の首には、赤い色の鈴が付いた首輪が見えていた。
確かにペットといえば首輪かもしれないが、人間につけるのはどうだろうか?かなりアウトな気がするのだが。
獣は自分に巻かれた首輪を確認しようと、何度も手で触った。やはり首輪が巻かれてる。きつく締められていない筈なのだが、妙な息苦しさを感じた。
獣は鏡を見ながら首輪をいじっていたが、ふと、この首輪に見覚えがあることに気づいた。

「これって……」

 獣は鏡にグッと顔を近づけて首輪を睨んだ。大きさは違うものの、色や鈴など、獣がミケに着けたものと同じモノではないか。獣は鏡から目を外してミケを見た。

「こ、これで妾とお揃いじゃな。ニョホホ」

ミケはちょこちょこと獣に近づくと、すっとドレスの袖を捲った。左手首には古びた赤い猫の首輪がつけられていた。今の彼女の首には小さすぎるからだろうか。獣がミケの手首をジッと見ていると、ミケの顔が段々と赤く染まっていった。

「あ、あんまりみるにゃあ……」

 恥ずかしさを含んだ声に、獣も思わずドキッと胸を高鳴らせる。

「自分から見せてきた癖に……」

「う、うるさいにゃ。ご主人さまに文句いうにゃじゃ……」 

「「甘ったれんな」」

「「!!!!?」」

  二人の間に流れ始めた空気を振り払うかのように、顔を近づけて発せられたペディ&チャムからの声に思わず二人は距離を離した。
 よく見るとミケの顔は真っ赤に染まっている。首輪を見せることがそんなに恥ずかしかったのだろうか。
 ミケはしどろもどろになりながら「こ、これ!主らは部屋からでるのじゃ!後は妾がするでの!!」と大声でペディ&チャムに言うと、二人の大男は「イエス。ボス」とだけ言った後、部屋を静かに退出していった。
 寝室には、ミケと獣の二人だけが残った。ドアの閉まる音が消え、部屋の中が静かになったのを見計らったかのように、ミケは少し離れた獣の方を向いた。

「よ、よし。それじゃあ、今からジュウは妾のペットじゃぞ~ニャハハ」

 不敵な笑みを浮かべたミケの顔が、獣にはいかにも悪だくみを考える悪の親玉に見えてきた。先程の甘い空気とは一変、何を言われるのかと獣の胸はドキドキと鳴りだした。

「そ、そうじゃなまずは、じゃあジュウ!」

 ミケが何か思いついたように目を丸く開き、口を開いた。その時、ふと、獣の頭にある疑問が沸いた。

(なんだか僕が命令されるような感じになってるんだけど……)

「『耳掃除』をしろじゃ!!」

(ペットって命令されるものだっけ?)

 獣のその疑問に答える者は、いつの間にかベッドに寝転がり、ペットが命令を実行するのを今かと待っていた。

魔法少女の悩みはパートナー


 一周年記念で頂いたイラストをキャラにして書いた、魔法少女の物語です!!

 かなりアバウトに書いてしまった気がしますが、誤字脱字の報告はぜひ下さい(笑)

 ではでは


 ちなみに登場キャラはこちらのウサギです

 1snk3.jpg

 それでは♪
 

 魔法少女の悩みはパートナー(前編)
 魔法少女の悩みはパートナー(中編)
 魔法少女の悩みはパートナー(後編)
 魔法少女の悩みはパートナー(終わり) 

はじめに!

黒いウサギ

Author:黒いウサギ
黒いウサギですこんにちは♪

職業:
一応大学院で頑張ってます

好きな物:
ノンアルコール飲料が
美味しく感じ始める

パスタ系全般
甘い物は別腹タイプ

好きな映画BEST5
①グラディエーター
②フォレスト・ガンプ
③アメリ
④ミックマック
⑤パラノーマル・アクティビティ

好きな本BEST5
①ジョジョの奇妙な冒険
②ゼロの使い魔
③容疑者Xの献身
④ひつじのうた
⑤銀魂

2012年、24になるウサギですが、
いい年にしたいですホント。
いろいろ込みあう大学院生活ですが、
楽しみつつ頑張っていきます!

PS:
質問、お悩み、ご相談の方は
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