2011.06.27
32話 アルルーナ→フーケ←黒のゴーレム
『...であるからして、土の三大栄養は窒素、リン酸、カリウムであり、この3つの栄養素を深く学ぶことは、作物を豊かに実らせる土を生成する上で極めて重要な...』
教壇で喋っている講師の声が教室内に響いていた。
呉作は目の前のノートにペンを走らせながら、響いてくる声を聞き取っていた。
講義の声に混じり、すぐ横からは気持ちよさそうな顔で寝ている友人の寝息も耳に入ってきた。
(また美代ちゃんたら寝ちゃってるだよ...もうすぐ試験だってのに大丈夫だかぁ?)
確か彼女は単位も危うかったはず。
既に大学で知り合って半年になるが、実習ではあれほど活き活きとしている彼女が座学の時間に起きている姿を見たのは数える程度。
呉作は隣で夢心地で寝ている美代を起こそうかどうかと少し悩み、肩を揺すろうとそっと手を伸ばした。
しかし、女性の体に気安く触れていいのだろうか?いやでも決してやましい事はないと...言いきれないが今は純粋に...
しどろもどろと考えながら、やっぱり起こす方がいいと決まったのか、彼女の肩に手が伸びた時、前の教壇で喋る講師の言葉に思わず手が止まった。
『土はあらゆる有機物、無機物が集まった、いわば物質の宝庫であると言っていい。先人達はこれに工夫を重ね、今日まで土から多くのモノを生み出してきた』
この講義を受け持つ教授の、いつもの脱線話だと分かっていたのだが、なぜかこの時の言葉は呉作の頭に強く残った。
『・・・・もし近い将来、この土から容易に特定の物質を取り出したり、逆に加えたりする技術が発明されれば、人類はいわゆるひとつの‘錬金術’を完成させたに等しくなるだろう』
その言葉が言い終わると同時に、授業終了の鐘が校内中に響き渡った。
『では今日の講義は以上。来週のこの時間までに前に言ったレポートを持ってくるように』
教授が教壇から降りてすぐ、今まで安らかな顔で寝ていた美代が目をパチッと開き、手を伸ばしたまま止めている呉作をジーっと凝視し始めた。
『・・・・・・・呉っちん?なに硬直してんの?どうしたの、パントマイム?』
美代の声が耳を通り過ぎ、慌てて手をひっこめた呉作は『そ、そうだうおぉ!!ぱ、パントマイム...』とおかしな言葉を口から漏らし、美代に笑われた。
かつてジョルジュが生きていた世界の話である
―・・・・それでロングビル様?一体いつになったら‘フーケ’として動くのですか?―
ルイズ達がサイトの小屋へ向かった直後、ルーナは頭の葉っぱに付いた草を取りながらロングビルに話しかけてきた。
ロングビルはしばらく黙りこんでいたが、ルーナの方を振り向くとクイっと眼鏡の位置を直した。
「・・・あのルーナさん?それはどういうことですか?」
ロングビルは少し冷めたような声でルーナに返したのだが、ルーナはそれを気にすることなく、クスクスといった笑い声をロングビルの頭に響かせた。
―クスクスクス...大丈夫ですよロングビル様。皆さんには告げ口しませんから。隠さなくたっていいんですよ私に...―
ロングビルは背中に、異様な寒気がゾクゾクと走った。
そう、初めて二人で話したあの夜にも遭ったあの感覚...
もう誤魔化すのは無理だと悟ったのか、ロングビルもといフーケは先ほどとは打って変わった様子で、ルーナに尋ねた。
「・・・・いつから気づいてたのさ?」
ルーナは顎(?)に指を当てながら、
―いえ...ホントに‘最初から’気づいてたのですが、まあこれまでの行動からすればロングビル様かなぁって落ち着いて考えれば分かりますわ―
ルーナは地面に座ると、まるで寝室で寛ぐかの様にゆったりと近くの木にもたれかかった。
フーケは依然とルーナに対して身構える。
―とりあえず、あの夜のゴーレム...普通、建物内の宝物を奪うのにあれだけ派手には動きません...
いくら土の魔法に自信があるからって、大勢のメイジに気付かれる危険のある行動はしませんわ―
ルーナはフーケの方を見てクスリとほほ笑む。
―考えられる理由は二つ。ゴーレムを出してもほとんど気付かれないという「学院の内情に詳しい」ことと、宝物庫に「学院の中から侵入するのが難しい若しくは不可能」と知っていること...
まあ、少なくとも学院に常にいる方じゃないと難しいのではないでしょうか―
ルーナは根っこを土の中に潜らせた。
奇妙な行動をとるルーナに、フーケは一歩後ずさる。
―それに今朝のロングビル様の行動...朝から事件の調査をしていたそうですが、学院からこの場所を突き止めるのに明らかに時間がおかしいです。
学院からは四方に逃げ場があるのにも関わらず、‘フーケが潜んでいる’場所を一人で見つけるなんて...―
ルーナの目がフーケを見つめる。
黒いレンズのような目が、まるでフーケを狙っているかのように捕えていた。
―100人で捜索しても難しいですわ。‘場所を知って’ない限り...私の考察は以上ですロングビル様。何か質問はございますか?―
フーケはルーナの響いてくる声を黙って聞いていたが、しばらくしてフフフッと口から笑い声を洩らし、次の瞬間、袖に仕込んだ杖を引き抜いてルーナの前に構えた。
「...あった時から気味の悪いヤツとは思ってたが、まさか植物ごときにココまで見破られるとはね。
そうさ、私がフーケだよ。それで?あんたのご主人さまに報告でもするのかい?最も、その前にあんたには消えてもらうけど」
フーケはそう言いながらも、いつでも魔法が唱えれる様に小声でルーンを唱えていた。
もはや猶予はない。
小屋に向かったガキとこいつの主人に気づかれないうちにこの使い魔をッッッ!!
土のメイジといっても、こいつを燃やすくらいの火の魔法くらいは知っている。
フーケは自分の勝利を確信した。
しかしそんな気持ちを知ってか知らずか、ルーナは変わらずにフーケの方を見て微笑んでいた。
ルーンが唱え終わり、最後の一文を唱えようとしたフーケの口が、何かに塞がれた。
次いで、腕、足が何かに絡めとられ、一瞬でフーケの自由を奪った。
!!!!!!!!!!!!!!!!?
突然のコトに、フーケの頭は混乱した。
すぐに何かに絞められた腕に視線を移すと、そこには細長いロープの様な形をしたモノがフーケを縛っていた。
体に目を動かすと、それは地面から這い上がってきており、よく見ると植物の‘蔓’のようであった。
―ロングビル様?先程も言いましたが、皆さまに告げ口するようなことはいたしませんよ―
フーケの頭に声を響かせながら、ルーナはもたれかかった木から背中を離し、よいしょと立った。
フーケは未だにルーナの方を睨んでいるのだが、ルーナが立った時、足下の地面が少し盛り上がっていることに気づいた。
―だけど、もしロングビル様がこのままフーケとして私を攻撃しようとするのでしたら残念ですが...―
その時、フーケの身体からザワザワと震えが起こりはじめた。
今までの声と違う、‘人間’が出せない無機質な声
―あ、もちろん野蛮なマンドレイクみたいに悲鳴でどうこうするってわけではありませんわ。ロングビル様は‘冬虫夏草’ってご存知?―
ルーナが地面に生えた根をズルズルと引きずりながら、一歩、一歩フーケに近づく。
フーケは近づいてくるルーナから離れようと、体に巻きついた蔓を取ろう体を動かすが、ビクともしない。
―虫の幼生に「寄生」して育つ私の仲間なんですけど...私も子供たちを育てる時、どうすれば育ちが良くなるか考えてるんですの。頭を悩ませるトコロですわ―
ルーナは頭をフルフルと軽く揺らした。
すると頭からポロポロと種らしき物体がこぼれ、ルーナの手に数粒落ちた。
『やはり完全な子は生まれないんです。やはり『盗人』の死んだところではないと...』
フーケは事態を察したのか、体を激しく動かした。
しかし蔓はびくともせず、体から一向に外れるコトはなかった。
(おいいいいいッッ!!え?え?うそだろ?こんなのアリッ!!?だってこういうのじゃないでしょ???この作品のジャンル的に○×▽&#くわせ!4&!!!)
自分の待つ未来を予測し、テンパったフーケの頭が変な電波を受け取ってしまたのか、訳の分からない言葉を口に出すが蔓で塞がれた口からはモゴモゴとしか聞こえてこない。
ルーナはフーケの目前まで迫り、ズイッと顔を近づけ、その前に手を出した。
手のひらに落ちた種はすでに芽を出し、鳴き声のような声を上げている。
―それで‘フーケ’様、ちょっと子供たちの「ゆりかご」になって頂きたいのですが...―
ルーナは手のひらで芽を出したアルルーナを一つ摘むと、フーケの耳元まで近づけた。
フーケの眼はすでにグルグルと回っているのだが、そんな彼女なんか知るか!!という様に、ルーナの指は耳の穴のすぐ手前まで入ってきた。
フーケの耳に、「ギャーッ」という微かな叫び声が響いてくる。
もはや心がやられそうな彼女の目の前に立つルーナの目が、フーケの目をギョロッと凝視する。
そしてその見つめてくる目から発せられたかのように、頭の中に無機質な声が通った。
―それが駄目でしたら、私のお願い、聞いてもらえますか?―
彼女に断る手段はなかった。
ルイズ達が小屋に入った後、少し経ってタバサが木箱を抱えて外に出てきたのが茂みから見えた。
彼女から見えないようフーケとルーナは場所を移動した。
「あの悪...いや主人を攻撃してくれ?一体どういうことなんでしょうかルーナ様?」
―ルーナでいいですわフーケ様、もっと気さくにお呼び下さいな―
ルーナはそうフーケに伝えると、茂みの上から小屋の方を眺める様に首を伸ばした。
遠くから見るとそこに大きな植物が生えたように見える。
―急に話す敬語になんも価値もありませんわ。そんなコトしてますと人間で言う‘空気読めない’人になりますわよフーケ様?―
ルーナは何時も通りの声をフーケの頭に響かせた。
こんの化け物植物がぁぁぁ!!!
フーケは目の前にいる植物を燃やしてやりたいと思ったが、先ほどの事を思い出し、一旦深呼吸すると、すぐに冷静さを取り戻した。
もう二度とあんな人生の選択はコリゴリだ。
しかも今度の選択肢は一つしかなさそうだし。
「ぐっ...わ、分かったよ。しかし自分の主人を攻撃してくれ?なんかあの子に恨みでもあるのかい」
フーケが木陰に隠れながら、横に立つルーナに尋ねると、ルーナはフフフと笑い、
―別段、私にとって「破壊の杖」が盗まれようがフーケ様が捕まろうがどうでもいいのですが、マスターがあのように荒れているのは使い魔として悲しいのです。とても心が痛みます―
風が森の木々をかき分けながらルーナの葉っぱをフワッと揺らした。
葉の揺れに合わせるように、パラパラと種が地面に落ちる。
―今のマスターは怒りをため込んだ状態...なにかしらあの怒りを解放しないことにはずっとあのままなワケなのですよ―
「いや、あれ怒りどころじゃないでしょ?なにか人ならざるものと契約結んだ感じでしょあれ」
フーケはすかさずツッコンだ。
いくら怒っているからといってあんな風になる奴をこの23年間見たことない。
『怒って赤くなる』人ならいるが、『怒って黒くなる』人なんて聞いたこともない。
―『強い感情は魔力に影響する』...私はそう聞いたことがあります。おそらくマスターの感情の昂りによって魔力が増大し、それがあのようなオーラになって視えるのでしょう―
「いや、怒ってあんなに魔力が増大している奴を私は見たことない。なにそれ?あいつの周り、年中エマージェンシー?」
フーケは再びツッコンだ。
いくら怒っているからといってあんな風に魔力出す奴をこの23年間見たことない。
『怒ってスクウェア』になるメイジなら見たことあるが、『怒って悪魔』になるメイジはもはや人じゃない。
「それで...あの悪..主人に私のゴーレムを攻撃させて、怒りを鎮めようって作戦かい?」
―さすがフーケ様です。植物に見破られるような作戦を実行する割には理解が早くて助かります―
「そうかい...私も今なら黒いオーラ出せそうだよ」
フーケの中に、魔力が増大する感覚を覚えた。
要はコイツの主人の為に噛ませ犬になれってかい!?土くれのフーケが落ちたもんだよ...
今ここで、このドS植物人間(人間植物?)を亡き者にしてやりたいが、やはり先程の恐怖が抜けてはおらず、フーケはぐっと怒りを堪えると、杖を小屋から離れた森の方に向けた。
しばらくして、小屋の中からルイズ達が出てきたのが見えた。
先程から小屋の外にいたタバサが腰かけている木箱に気づき、それを開け始めたのだ。
もしかすると破壊の杖を巻きこんでしまうかも知れないが...
―ああ、マスターも出てきたようです。それではフーケ様、始めてください―
ルーナは小屋の方を見ながら視線を変えず、フーケの頭にそう伝えた。
フーケは杖を握りなおし、
「あんたがそう言うなら命令どおりにするけど、アタシは手加減を知らないよ?あんたの御主人様を踏みつぶすかも知れないけど構わないのかい?」
―ああ...それなら心配は御無用です。全力でお願いしますわフーケ様―
フーケはチラリとルーナの方を見た。
何を考えているか分からないのもそうだが、いくら何でも「怒りを鎮めるために自分の主人を攻撃しろ」なんて...
(全く...厄介な奴に睨まれちまったね)
いろいろな疑問がフーケの頭に浮かびあがったが、呪文を唱えないフーケにしびれを切らしたのか、先ほどフーケにお願いした(脅した)時の無機質な声を一つ、響かせた。
―フーケ様?やはり‘冬虫夏草’になっていただけますの?―
「精一杯ゴーレム作らしてもらいます」
ええいもう知るか!!!全部あのハゲの所為だ!!
フーケはありったけの魔力を込め、ルーンを詠唱する。
森の中の土を使い生成されてきたゴーレムは周りの木を超え、30メイル程の高さにまで生成された。
フーケは我ながら休んでないのによく出来たなと一人でに感心すると、小屋の方へとゴーレムを向かわせた。
地響きを鳴らしながらゴーレムを見ながら、ルーナはまた、クスリと笑った。
―まあ、フーケ様が今のマスターを倒すなど到底考えられませんけど...―
小屋の方では、ジョルジュが唱え出した呪文により、目の前の地面が黒く変色し始めた。
ルイズ達が声を出さず見ている中、ジョルジュはユラユラと体を左右に揺らし、ルーンを紡いでいく。
その口から出てくる呪文はルイズ達が今まで聞いたことのないものであり、恐らくジョルジュが誰にも見せていない魔法であることは頭の中で分かった。
黒くなった地面は、やがてモコッと盛り上がり、段々と人型に形成されていく。
やがてゴーレムは出来上がった。
しかしその姿を見て、キュルケは思わず呟く。
「......小さくない?」
キュルケの言うとおり、ジョルジュの目の前に作られたゴーレムは、小さなゴーレムであった。
大きさはルイズと比べても同じ程、むしろ小さいくらいか。
黒く変色した体はどう見ても不格好であり、しかも作りはそれほど奇麗とはいえず、腕の部分や顔の部分からは既にポロポロと黒くなった土が零れている。
これではフーケのゴーレムに太刀打ちできるはずがない。
キュルケがそう思っている前で、ジョルジュは木箱を両手で持ち上げると、目の前にいたサイトの空いていた腕に置き、ボソッと声を出した。
「ミンナ、破壊ノ杖ヲ持ッテ逃ゲルダヨ」
ジョルジュはそう言うとすぐ向き直り、呪文の詠唱を続けた。
すると先程の黒いゴーレムの周りの地面が、次々と盛り上がってきた。
その数はとうとう10体ほどまで作られたが、いずれもルイズより少し小さい、不格好なゴーレムであった。
その形と色で、奇妙な不気味さを漂わせているが、誰からの目にも到底フーケに勝てるようなものではないと思われた。
ルイズはジョルジュが魔法に失敗したと思い、彼の腕を掴んで大声で叫んだ。
「ちょ、ちょっとジョルジュ!!こんなゴーレムであんな大きなのに勝てるわけないでしょ!?それより皆で...」
ルイズが最後まで言い切らない内に、辺りにタバサの口笛が響いた。
それに合わせるかのように、どこにいたのかタバサの使い魔であるシルフィードが空から降りてきた。
「乗って」
「タバサ!?でもジョルジュが戦おうとしてるのよ?」
タバサの声に、納得のいかないキュルケが反応するが、タバサはシルフィードに何か指示すると、彼女はヒラリつ風竜の背中に乗り、詠唱を始めた。
「え?ちょ?何?うわわ!!!」
ジョルジュの腕を掴んでいたルイズの体はフワッと浮き上がり、そのまま風竜の背中へと運ばれた。
キュルケも問答無用でタバサの「レビテーション」で乗せられ、破壊の杖と剣を持ったままのサイトを、シルフィードが口でくわえる。
「すぐ上に」
タバサの声に、シルフィードは大きく翼を動かすと一気に上空へと昇っていった。
その風にジョルジュのゴーレム達から、黒くなった土が落ちるが、ジョルジュはじっとフーケのゴーレムの方を見ている。
「いたたたたた!!!もげるもげる!!首が伸びるって!!人間から妖怪になっちゃうって!!」
「ちょっとタバサ!!?ジョルジュがまだいるのよ!?早く助けないと...」
ルイズがタバサの肩を掴んでジョルジュの元に行く様頼むが、タバサはじっと地面の方を眺めてフルフルと首を横に振る。
ルイズがまた何か言おうとするが、タバサはルイズ達の方にクルッと顔を向けた。
「あのゴーレムは・・・危険・・・・・・私たちがいても・・・・・彼の邪魔になる」
タバサの言葉で、キュルケ、ルイズは口をつぐんだ。
いつもの彼女からこんなセリフを聞いたことがない...
やがてシルフィードはジョルジュがやっと確認できるくらいの高さまで昇った。
ジョルジュのゴーレムも、やっと形として視認できる。
あんな小さなゴーレムが危険?
ルイズがそう思った瞬間、ジョルジュの周りに立つゴーレムの内、三体がフーケのゴーレムに向かって走り出した。
「・・・・なんだいあれ?」
フーケは小屋の方を見ながら、隣にいるルーナの主人が作りだしたゴーレムに思わず声を出した。
数こそあれど、その体は普通の人型よりも小さい。
黒く変色しているのは土を何かの金属に変えた為か。
銅?
鉄?
しかしポロポロと崩れているところを見ると、金属のような感じはしない。
まさかただの炭だったり...
フーケは学院でのオスマンの言葉を思い出した。
『彼自身も大変優秀なメイジじゃ...ネッ?』
確か、私と同じ土のトライアングルと聞いてたが、あんなゴーレム、ドットクラスのメイジでももっと「まし」なのを作る。
「どうやらアンタのご主人様、頭に血が昇り過ぎて魔法に失敗したらしいよ?どうすn...」
フーケはそう呟きながら横を向いたが、さっきまで隣にいた人間植物はいなくなっていた。
フーケはキョロキョロと辺りを見回すと、後ろの離れた木の横に、ニッコリと手を振りながらこちらを見ていた。
「ちょ、なに逃げてるんだい!!?てかアンタの主人ゴーレム作成に失敗したんだよ!?仲間も上に飛んで行っちまったし、どうすんだい!!」
フーケは大きな声を上げてルーナに尋ねたが、頭の中にはいつものクスクスとした笑いと、何を考えているか分からないような声が頭に響いてきた。
―あれが失敗?フーケ様...そんなコトは考えない方がいいですよ―
「は?」
フーケは一体どういう事かと聞き返そうとしたが、視線の端に、ジョルジュのゴーレムが飛び出てくるのが見えた。
「んな!?あれで来るのかい?」
ジョルジュの作ったゴーレム3体は、一直線にフーケのゴーレムに向かって走ってくる。
体は小さい為か、その動きは素早く、並の人間よりも早く感じる。
ジョルジュのゴーレムは3体がひと塊りになり、20メイル以上あったその距離を一気に詰めてきた。
「小さく作ったのはその為かい?だけどそんなちっこい体じゃ私のゴーレムは倒せるわけないだろ!」
フーケはゴーレムに迎撃するよう指示を出した。
ゴーレムはその巨大な右拳を広げ、横に凪ぐように振り回した。
メイジ同士のゴーレムが相対する時、いくら素早かろうが最終的にモノをいうのは攻撃力。
圧倒的質量に適う筈がない
ジョルジュのゴーレムが巨大な腕に殴られそうになったその瞬間、ジョルジュの口元がかすかに動いた。
「ドン」
次の瞬間、辺りに轟音と爆風が響いた。
轟音は森から一斉に鳥を飛び立たせ、爆風の衝撃は離れたフーケの髪も後ろに吹かせた。
「・・・・え?」
フーケが目を丸くしたその先には、右腕がボロボロに崩れ落ちてしまった自分のゴーレムがいた。
『土はあらゆる有機物、無機物が集まった、いわば物質の宝庫であると言っていい。先人達はこれに工夫を重ね、今日まで土から多くのモノを生み出してきた』
「ちょ、ちょっと…え?なにあれ?てかあの坊や、土のメイジじゃないの?」
それはある意味‘土’の魔法
ジョルジュが作った、おそらくは彼のオリジナル
前世の知識から生み出されたゴーレムは...
『・・・人類はいわゆるひとつの‘錬金術’を完成させたに等しくなるだろう』
‘火薬’のゴーレム
「ジャックランタン」
教壇で喋っている講師の声が教室内に響いていた。
呉作は目の前のノートにペンを走らせながら、響いてくる声を聞き取っていた。
講義の声に混じり、すぐ横からは気持ちよさそうな顔で寝ている友人の寝息も耳に入ってきた。
(また美代ちゃんたら寝ちゃってるだよ...もうすぐ試験だってのに大丈夫だかぁ?)
確か彼女は単位も危うかったはず。
既に大学で知り合って半年になるが、実習ではあれほど活き活きとしている彼女が座学の時間に起きている姿を見たのは数える程度。
呉作は隣で夢心地で寝ている美代を起こそうかどうかと少し悩み、肩を揺すろうとそっと手を伸ばした。
しかし、女性の体に気安く触れていいのだろうか?いやでも決してやましい事はないと...言いきれないが今は純粋に...
しどろもどろと考えながら、やっぱり起こす方がいいと決まったのか、彼女の肩に手が伸びた時、前の教壇で喋る講師の言葉に思わず手が止まった。
『土はあらゆる有機物、無機物が集まった、いわば物質の宝庫であると言っていい。先人達はこれに工夫を重ね、今日まで土から多くのモノを生み出してきた』
この講義を受け持つ教授の、いつもの脱線話だと分かっていたのだが、なぜかこの時の言葉は呉作の頭に強く残った。
『・・・・もし近い将来、この土から容易に特定の物質を取り出したり、逆に加えたりする技術が発明されれば、人類はいわゆるひとつの‘錬金術’を完成させたに等しくなるだろう』
その言葉が言い終わると同時に、授業終了の鐘が校内中に響き渡った。
『では今日の講義は以上。来週のこの時間までに前に言ったレポートを持ってくるように』
教授が教壇から降りてすぐ、今まで安らかな顔で寝ていた美代が目をパチッと開き、手を伸ばしたまま止めている呉作をジーっと凝視し始めた。
『・・・・・・・呉っちん?なに硬直してんの?どうしたの、パントマイム?』
美代の声が耳を通り過ぎ、慌てて手をひっこめた呉作は『そ、そうだうおぉ!!ぱ、パントマイム...』とおかしな言葉を口から漏らし、美代に笑われた。
かつてジョルジュが生きていた世界の話である
―・・・・それでロングビル様?一体いつになったら‘フーケ’として動くのですか?―
ルイズ達がサイトの小屋へ向かった直後、ルーナは頭の葉っぱに付いた草を取りながらロングビルに話しかけてきた。
ロングビルはしばらく黙りこんでいたが、ルーナの方を振り向くとクイっと眼鏡の位置を直した。
「・・・あのルーナさん?それはどういうことですか?」
ロングビルは少し冷めたような声でルーナに返したのだが、ルーナはそれを気にすることなく、クスクスといった笑い声をロングビルの頭に響かせた。
―クスクスクス...大丈夫ですよロングビル様。皆さんには告げ口しませんから。隠さなくたっていいんですよ私に...―
ロングビルは背中に、異様な寒気がゾクゾクと走った。
そう、初めて二人で話したあの夜にも遭ったあの感覚...
もう誤魔化すのは無理だと悟ったのか、ロングビルもといフーケは先ほどとは打って変わった様子で、ルーナに尋ねた。
「・・・・いつから気づいてたのさ?」
ルーナは顎(?)に指を当てながら、
―いえ...ホントに‘最初から’気づいてたのですが、まあこれまでの行動からすればロングビル様かなぁって落ち着いて考えれば分かりますわ―
ルーナは地面に座ると、まるで寝室で寛ぐかの様にゆったりと近くの木にもたれかかった。
フーケは依然とルーナに対して身構える。
―とりあえず、あの夜のゴーレム...普通、建物内の宝物を奪うのにあれだけ派手には動きません...
いくら土の魔法に自信があるからって、大勢のメイジに気付かれる危険のある行動はしませんわ―
ルーナはフーケの方を見てクスリとほほ笑む。
―考えられる理由は二つ。ゴーレムを出してもほとんど気付かれないという「学院の内情に詳しい」ことと、宝物庫に「学院の中から侵入するのが難しい若しくは不可能」と知っていること...
まあ、少なくとも学院に常にいる方じゃないと難しいのではないでしょうか―
ルーナは根っこを土の中に潜らせた。
奇妙な行動をとるルーナに、フーケは一歩後ずさる。
―それに今朝のロングビル様の行動...朝から事件の調査をしていたそうですが、学院からこの場所を突き止めるのに明らかに時間がおかしいです。
学院からは四方に逃げ場があるのにも関わらず、‘フーケが潜んでいる’場所を一人で見つけるなんて...―
ルーナの目がフーケを見つめる。
黒いレンズのような目が、まるでフーケを狙っているかのように捕えていた。
―100人で捜索しても難しいですわ。‘場所を知って’ない限り...私の考察は以上ですロングビル様。何か質問はございますか?―
フーケはルーナの響いてくる声を黙って聞いていたが、しばらくしてフフフッと口から笑い声を洩らし、次の瞬間、袖に仕込んだ杖を引き抜いてルーナの前に構えた。
「...あった時から気味の悪いヤツとは思ってたが、まさか植物ごときにココまで見破られるとはね。
そうさ、私がフーケだよ。それで?あんたのご主人さまに報告でもするのかい?最も、その前にあんたには消えてもらうけど」
フーケはそう言いながらも、いつでも魔法が唱えれる様に小声でルーンを唱えていた。
もはや猶予はない。
小屋に向かったガキとこいつの主人に気づかれないうちにこの使い魔をッッッ!!
土のメイジといっても、こいつを燃やすくらいの火の魔法くらいは知っている。
フーケは自分の勝利を確信した。
しかしそんな気持ちを知ってか知らずか、ルーナは変わらずにフーケの方を見て微笑んでいた。
ルーンが唱え終わり、最後の一文を唱えようとしたフーケの口が、何かに塞がれた。
次いで、腕、足が何かに絡めとられ、一瞬でフーケの自由を奪った。
!!!!!!!!!!!!!!!!?
突然のコトに、フーケの頭は混乱した。
すぐに何かに絞められた腕に視線を移すと、そこには細長いロープの様な形をしたモノがフーケを縛っていた。
体に目を動かすと、それは地面から這い上がってきており、よく見ると植物の‘蔓’のようであった。
―ロングビル様?先程も言いましたが、皆さまに告げ口するようなことはいたしませんよ―
フーケの頭に声を響かせながら、ルーナはもたれかかった木から背中を離し、よいしょと立った。
フーケは未だにルーナの方を睨んでいるのだが、ルーナが立った時、足下の地面が少し盛り上がっていることに気づいた。
―だけど、もしロングビル様がこのままフーケとして私を攻撃しようとするのでしたら残念ですが...―
その時、フーケの身体からザワザワと震えが起こりはじめた。
今までの声と違う、‘人間’が出せない無機質な声
―あ、もちろん野蛮なマンドレイクみたいに悲鳴でどうこうするってわけではありませんわ。ロングビル様は‘冬虫夏草’ってご存知?―
ルーナが地面に生えた根をズルズルと引きずりながら、一歩、一歩フーケに近づく。
フーケは近づいてくるルーナから離れようと、体に巻きついた蔓を取ろう体を動かすが、ビクともしない。
―虫の幼生に「寄生」して育つ私の仲間なんですけど...私も子供たちを育てる時、どうすれば育ちが良くなるか考えてるんですの。頭を悩ませるトコロですわ―
ルーナは頭をフルフルと軽く揺らした。
すると頭からポロポロと種らしき物体がこぼれ、ルーナの手に数粒落ちた。
『やはり完全な子は生まれないんです。やはり『盗人』の死んだところではないと...』
フーケは事態を察したのか、体を激しく動かした。
しかし蔓はびくともせず、体から一向に外れるコトはなかった。
(おいいいいいッッ!!え?え?うそだろ?こんなのアリッ!!?だってこういうのじゃないでしょ???この作品のジャンル的に○×▽&#くわせ!4&!!!)
自分の待つ未来を予測し、テンパったフーケの頭が変な電波を受け取ってしまたのか、訳の分からない言葉を口に出すが蔓で塞がれた口からはモゴモゴとしか聞こえてこない。
ルーナはフーケの目前まで迫り、ズイッと顔を近づけ、その前に手を出した。
手のひらに落ちた種はすでに芽を出し、鳴き声のような声を上げている。
―それで‘フーケ’様、ちょっと子供たちの「ゆりかご」になって頂きたいのですが...―
ルーナは手のひらで芽を出したアルルーナを一つ摘むと、フーケの耳元まで近づけた。
フーケの眼はすでにグルグルと回っているのだが、そんな彼女なんか知るか!!という様に、ルーナの指は耳の穴のすぐ手前まで入ってきた。
フーケの耳に、「ギャーッ」という微かな叫び声が響いてくる。
もはや心がやられそうな彼女の目の前に立つルーナの目が、フーケの目をギョロッと凝視する。
そしてその見つめてくる目から発せられたかのように、頭の中に無機質な声が通った。
―それが駄目でしたら、私のお願い、聞いてもらえますか?―
彼女に断る手段はなかった。
ルイズ達が小屋に入った後、少し経ってタバサが木箱を抱えて外に出てきたのが茂みから見えた。
彼女から見えないようフーケとルーナは場所を移動した。
「あの悪...いや主人を攻撃してくれ?一体どういうことなんでしょうかルーナ様?」
―ルーナでいいですわフーケ様、もっと気さくにお呼び下さいな―
ルーナはそうフーケに伝えると、茂みの上から小屋の方を眺める様に首を伸ばした。
遠くから見るとそこに大きな植物が生えたように見える。
―急に話す敬語になんも価値もありませんわ。そんなコトしてますと人間で言う‘空気読めない’人になりますわよフーケ様?―
ルーナは何時も通りの声をフーケの頭に響かせた。
こんの化け物植物がぁぁぁ!!!
フーケは目の前にいる植物を燃やしてやりたいと思ったが、先ほどの事を思い出し、一旦深呼吸すると、すぐに冷静さを取り戻した。
もう二度とあんな人生の選択はコリゴリだ。
しかも今度の選択肢は一つしかなさそうだし。
「ぐっ...わ、分かったよ。しかし自分の主人を攻撃してくれ?なんかあの子に恨みでもあるのかい」
フーケが木陰に隠れながら、横に立つルーナに尋ねると、ルーナはフフフと笑い、
―別段、私にとって「破壊の杖」が盗まれようがフーケ様が捕まろうがどうでもいいのですが、マスターがあのように荒れているのは使い魔として悲しいのです。とても心が痛みます―
風が森の木々をかき分けながらルーナの葉っぱをフワッと揺らした。
葉の揺れに合わせるように、パラパラと種が地面に落ちる。
―今のマスターは怒りをため込んだ状態...なにかしらあの怒りを解放しないことにはずっとあのままなワケなのですよ―
「いや、あれ怒りどころじゃないでしょ?なにか人ならざるものと契約結んだ感じでしょあれ」
フーケはすかさずツッコンだ。
いくら怒っているからといってあんな風になる奴をこの23年間見たことない。
『怒って赤くなる』人ならいるが、『怒って黒くなる』人なんて聞いたこともない。
―『強い感情は魔力に影響する』...私はそう聞いたことがあります。おそらくマスターの感情の昂りによって魔力が増大し、それがあのようなオーラになって視えるのでしょう―
「いや、怒ってあんなに魔力が増大している奴を私は見たことない。なにそれ?あいつの周り、年中エマージェンシー?」
フーケは再びツッコンだ。
いくら怒っているからといってあんな風に魔力出す奴をこの23年間見たことない。
『怒ってスクウェア』になるメイジなら見たことあるが、『怒って悪魔』になるメイジはもはや人じゃない。
「それで...あの悪..主人に私のゴーレムを攻撃させて、怒りを鎮めようって作戦かい?」
―さすがフーケ様です。植物に見破られるような作戦を実行する割には理解が早くて助かります―
「そうかい...私も今なら黒いオーラ出せそうだよ」
フーケの中に、魔力が増大する感覚を覚えた。
要はコイツの主人の為に噛ませ犬になれってかい!?土くれのフーケが落ちたもんだよ...
今ここで、このドS植物人間(人間植物?)を亡き者にしてやりたいが、やはり先程の恐怖が抜けてはおらず、フーケはぐっと怒りを堪えると、杖を小屋から離れた森の方に向けた。
しばらくして、小屋の中からルイズ達が出てきたのが見えた。
先程から小屋の外にいたタバサが腰かけている木箱に気づき、それを開け始めたのだ。
もしかすると破壊の杖を巻きこんでしまうかも知れないが...
―ああ、マスターも出てきたようです。それではフーケ様、始めてください―
ルーナは小屋の方を見ながら視線を変えず、フーケの頭にそう伝えた。
フーケは杖を握りなおし、
「あんたがそう言うなら命令どおりにするけど、アタシは手加減を知らないよ?あんたの御主人様を踏みつぶすかも知れないけど構わないのかい?」
―ああ...それなら心配は御無用です。全力でお願いしますわフーケ様―
フーケはチラリとルーナの方を見た。
何を考えているか分からないのもそうだが、いくら何でも「怒りを鎮めるために自分の主人を攻撃しろ」なんて...
(全く...厄介な奴に睨まれちまったね)
いろいろな疑問がフーケの頭に浮かびあがったが、呪文を唱えないフーケにしびれを切らしたのか、先ほどフーケにお願いした(脅した)時の無機質な声を一つ、響かせた。
―フーケ様?やはり‘冬虫夏草’になっていただけますの?―
「精一杯ゴーレム作らしてもらいます」
ええいもう知るか!!!全部あのハゲの所為だ!!
フーケはありったけの魔力を込め、ルーンを詠唱する。
森の中の土を使い生成されてきたゴーレムは周りの木を超え、30メイル程の高さにまで生成された。
フーケは我ながら休んでないのによく出来たなと一人でに感心すると、小屋の方へとゴーレムを向かわせた。
地響きを鳴らしながらゴーレムを見ながら、ルーナはまた、クスリと笑った。
―まあ、フーケ様が今のマスターを倒すなど到底考えられませんけど...―
小屋の方では、ジョルジュが唱え出した呪文により、目の前の地面が黒く変色し始めた。
ルイズ達が声を出さず見ている中、ジョルジュはユラユラと体を左右に揺らし、ルーンを紡いでいく。
その口から出てくる呪文はルイズ達が今まで聞いたことのないものであり、恐らくジョルジュが誰にも見せていない魔法であることは頭の中で分かった。
黒くなった地面は、やがてモコッと盛り上がり、段々と人型に形成されていく。
やがてゴーレムは出来上がった。
しかしその姿を見て、キュルケは思わず呟く。
「......小さくない?」
キュルケの言うとおり、ジョルジュの目の前に作られたゴーレムは、小さなゴーレムであった。
大きさはルイズと比べても同じ程、むしろ小さいくらいか。
黒く変色した体はどう見ても不格好であり、しかも作りはそれほど奇麗とはいえず、腕の部分や顔の部分からは既にポロポロと黒くなった土が零れている。
これではフーケのゴーレムに太刀打ちできるはずがない。
キュルケがそう思っている前で、ジョルジュは木箱を両手で持ち上げると、目の前にいたサイトの空いていた腕に置き、ボソッと声を出した。
「ミンナ、破壊ノ杖ヲ持ッテ逃ゲルダヨ」
ジョルジュはそう言うとすぐ向き直り、呪文の詠唱を続けた。
すると先程の黒いゴーレムの周りの地面が、次々と盛り上がってきた。
その数はとうとう10体ほどまで作られたが、いずれもルイズより少し小さい、不格好なゴーレムであった。
その形と色で、奇妙な不気味さを漂わせているが、誰からの目にも到底フーケに勝てるようなものではないと思われた。
ルイズはジョルジュが魔法に失敗したと思い、彼の腕を掴んで大声で叫んだ。
「ちょ、ちょっとジョルジュ!!こんなゴーレムであんな大きなのに勝てるわけないでしょ!?それより皆で...」
ルイズが最後まで言い切らない内に、辺りにタバサの口笛が響いた。
それに合わせるかのように、どこにいたのかタバサの使い魔であるシルフィードが空から降りてきた。
「乗って」
「タバサ!?でもジョルジュが戦おうとしてるのよ?」
タバサの声に、納得のいかないキュルケが反応するが、タバサはシルフィードに何か指示すると、彼女はヒラリつ風竜の背中に乗り、詠唱を始めた。
「え?ちょ?何?うわわ!!!」
ジョルジュの腕を掴んでいたルイズの体はフワッと浮き上がり、そのまま風竜の背中へと運ばれた。
キュルケも問答無用でタバサの「レビテーション」で乗せられ、破壊の杖と剣を持ったままのサイトを、シルフィードが口でくわえる。
「すぐ上に」
タバサの声に、シルフィードは大きく翼を動かすと一気に上空へと昇っていった。
その風にジョルジュのゴーレム達から、黒くなった土が落ちるが、ジョルジュはじっとフーケのゴーレムの方を見ている。
「いたたたたた!!!もげるもげる!!首が伸びるって!!人間から妖怪になっちゃうって!!」
「ちょっとタバサ!!?ジョルジュがまだいるのよ!?早く助けないと...」
ルイズがタバサの肩を掴んでジョルジュの元に行く様頼むが、タバサはじっと地面の方を眺めてフルフルと首を横に振る。
ルイズがまた何か言おうとするが、タバサはルイズ達の方にクルッと顔を向けた。
「あのゴーレムは・・・危険・・・・・・私たちがいても・・・・・彼の邪魔になる」
タバサの言葉で、キュルケ、ルイズは口をつぐんだ。
いつもの彼女からこんなセリフを聞いたことがない...
やがてシルフィードはジョルジュがやっと確認できるくらいの高さまで昇った。
ジョルジュのゴーレムも、やっと形として視認できる。
あんな小さなゴーレムが危険?
ルイズがそう思った瞬間、ジョルジュの周りに立つゴーレムの内、三体がフーケのゴーレムに向かって走り出した。
「・・・・なんだいあれ?」
フーケは小屋の方を見ながら、隣にいるルーナの主人が作りだしたゴーレムに思わず声を出した。
数こそあれど、その体は普通の人型よりも小さい。
黒く変色しているのは土を何かの金属に変えた為か。
銅?
鉄?
しかしポロポロと崩れているところを見ると、金属のような感じはしない。
まさかただの炭だったり...
フーケは学院でのオスマンの言葉を思い出した。
『彼自身も大変優秀なメイジじゃ...ネッ?』
確か、私と同じ土のトライアングルと聞いてたが、あんなゴーレム、ドットクラスのメイジでももっと「まし」なのを作る。
「どうやらアンタのご主人様、頭に血が昇り過ぎて魔法に失敗したらしいよ?どうすn...」
フーケはそう呟きながら横を向いたが、さっきまで隣にいた人間植物はいなくなっていた。
フーケはキョロキョロと辺りを見回すと、後ろの離れた木の横に、ニッコリと手を振りながらこちらを見ていた。
「ちょ、なに逃げてるんだい!!?てかアンタの主人ゴーレム作成に失敗したんだよ!?仲間も上に飛んで行っちまったし、どうすんだい!!」
フーケは大きな声を上げてルーナに尋ねたが、頭の中にはいつものクスクスとした笑いと、何を考えているか分からないような声が頭に響いてきた。
―あれが失敗?フーケ様...そんなコトは考えない方がいいですよ―
「は?」
フーケは一体どういう事かと聞き返そうとしたが、視線の端に、ジョルジュのゴーレムが飛び出てくるのが見えた。
「んな!?あれで来るのかい?」
ジョルジュの作ったゴーレム3体は、一直線にフーケのゴーレムに向かって走ってくる。
体は小さい為か、その動きは素早く、並の人間よりも早く感じる。
ジョルジュのゴーレムは3体がひと塊りになり、20メイル以上あったその距離を一気に詰めてきた。
「小さく作ったのはその為かい?だけどそんなちっこい体じゃ私のゴーレムは倒せるわけないだろ!」
フーケはゴーレムに迎撃するよう指示を出した。
ゴーレムはその巨大な右拳を広げ、横に凪ぐように振り回した。
メイジ同士のゴーレムが相対する時、いくら素早かろうが最終的にモノをいうのは攻撃力。
圧倒的質量に適う筈がない
ジョルジュのゴーレムが巨大な腕に殴られそうになったその瞬間、ジョルジュの口元がかすかに動いた。
「ドン」
次の瞬間、辺りに轟音と爆風が響いた。
轟音は森から一斉に鳥を飛び立たせ、爆風の衝撃は離れたフーケの髪も後ろに吹かせた。
「・・・・え?」
フーケが目を丸くしたその先には、右腕がボロボロに崩れ落ちてしまった自分のゴーレムがいた。
『土はあらゆる有機物、無機物が集まった、いわば物質の宝庫であると言っていい。先人達はこれに工夫を重ね、今日まで土から多くのモノを生み出してきた』
「ちょ、ちょっと…え?なにあれ?てかあの坊や、土のメイジじゃないの?」
それはある意味‘土’の魔法
ジョルジュが作った、おそらくは彼のオリジナル
前世の知識から生み出されたゴーレムは...
『・・・人類はいわゆるひとつの‘錬金術’を完成させたに等しくなるだろう』
‘火薬’のゴーレム
「ジャックランタン」
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